宝石が転がっていた。円堂の足首まで色とりどりの宝石が埋め尽くしていて床は見えない。宝石は無数に敷き詰められているが、無数にあると価値はぼやけて薄れてしまう。それでもキラキラとシャンデリアの光を浴びて輝く宝石は増殖していく。

アフロディが泣いていた

小さな部屋の中心で顔を覆って泣くのはアフロディだ。瞳からは宝石はコツコツと生まれている。部屋を侵食せんとする宝石はアフロディの涙が宝石へ変化したものであった。肩は小刻みに揺れて嗚咽も漏れていたから、円堂は泣いているのだと直感したのだ。

「アフロディ?」

円堂は困惑した。足首に積もる宝石は重たい、それに足を持ち上げれば綺麗な宝石を踏んでしまう。宝石の価値は分からないが、きっと高価だ。そう考えた円堂は行動がとれず立ち尽くして未だ泣き続るアフロディを眺めるという選択しかできない。反対に、アフロディはやはり泣いたままではあったが、顔を上げた。泣いているため頬を伝っているのは涙(宝石)だが、表情は笑っていた。

「やあ円堂くん、もう少し待ってね。あともう少しでこの部屋いっぱいの宝石をきみにプレゼントできるから」

にこにこと笑うアフロディの瞳からは絶えず宝石が作られていく。円堂の心にその光景はとても悲しく映った。宝石をプレゼントすると言われたにもかかわらず、瞳はゆらゆらと揺れる。価値の分からない少年は無欲だった。

「アフロディ」

コツコツ、こうしている間にも宝石は踝まで増えてしまった。これ以上泣けば、きっと2人は輝く宝石の海に沈んでしまうだろう。再び顔を覆って泣き出したアフロディはハイペースに宝石を生み出していく。決心した円堂は小さく頷いて足を半分飲み込んだ宝石の群れから右足を抜いた。そしてアフロディの元へ歩く為、宝石を踏みつけて進んだ。

ジャリ、ガリ、と宝石同士が悲鳴を上げるが円堂はお構いなしに一直線に進む。アフロディは呆気にとられてその様子を見ることしかできない。宝石を踏み潰されるとは考えていなかったのだ。

「円堂くん」

床に座り込んで泣いていたアフロディはもう臍まで宝石に埋まっている。円堂は宝石から生まれたような姿のアフロディを抱き締めた。ぽろり、アフロディの瞳からは再び宝石が零れた。

「宝石は綺麗だけど、俺はアフロディに泣いて欲しくないよ」

「でも僕は宝石をプレゼントしたいんだ」

アフロディは今までこうして友好を築き上げてきた。宝石が嫌いな人間はいない。だから円堂には特別部屋いっぱいの宝石を与えようとしたのだ。これで円堂も自分を気に入ると目論んだアフロディの誤算である。失敗したことのショックで処理が追い付かない瞳からはやはり宝石が溢れる。

「俺はそんなのでアフロディの近くにいたいんじゃないよ」

アフロディの額に自らの額を当てた円堂は静かに瞼を下ろして言い聞かせるように語りかけた。抱き締めた腕はいま手と手を繋いでいた。

円堂の不可解な解答にアフロディの涙はすっかり止まってしまった。とても静かな宝石が敷き詰められた部屋。アフロディは円堂の真似をしてゆっくり瞼を下ろしてみた。分からない解答はきっと、宝石より美しいものに違いない。アフロディはそう予感した。

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -