「やさしい夜だったね」ヒロトはにこにこしながら挨拶より先に言葉を発した。よく分からなくて愛想笑いを浮かべてみたが通じなかったらしくやはり笑ったままだ。翡翠はいつもより透き通っていた。「夜が、やさしかったのか?」分からないとは言えず、とりあえずコミュニケーションだ。聞き返すことは重要だと先生も言っていた気がする。しかしヒロトは「うん」としか返事をしなかった。からかっているのかと疑ってみたが、ヒロトはそんなやつじゃない。「えっと、どんな風に?」否定ではなく質問をすれば、にこにこ笑っていた笑顔は不思議そうな顔になった。「やさしくなかった?」俺には難しい種類のコミュニケーションのようだ。「…ごめん、ヒロト」正直に謝ってからやさしい夜について聞こうと思ったが、再び口を開こうとするより前に突然、ヒロトは足元から泡になった。「うわあっ!」驚く俺を余所にそれが当然だというようにヒロトは気にしていない。「やさしい夜だったんだよ」膝から臍へ、指先から肘へ、泡になって消えていくのにヒロトは笑っていた。訳が分からなくて困惑する俺を前にして、残すは首になったヒロトは綺麗な翡翠の瞳に俺を写す。「円堂くんと夢で会わせてくれたから」すっかり消えてしまったヒロトと入れ替わりのように、けたたましい音と怒声がどこか遠くから響いてきた。


「守、いつまで寝ているの!」
 
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