円堂♀
踊れないからとダンスを断ってテラスに出た。サッカーチームの親睦を深めようと開催されたパーティーは私の性分には合わないようで息が苦しい。秋や冬っぺに無理矢理着せられたドレスは重いし、ヒールは歩きにくい。パーティーなんか大嫌いだ。
「やあシンデレラ」
深く溜め息をつくと、テラスの向こうから人影が現れた。テラスとの僅かな段差で今日は私の方が身長が高い
「ミストレ」
会場から漏れる光でぼんやりとミストレが浮かんだ。きっと私よりドレスが似合う男だ。ミストレは派手好きて目立つパーティーは好きだと言っていた気がするが、気まぐれが勝ったらしい
「思っていたより、様になってるじゃないか」
小馬鹿にした笑いを私に向けてからミストレはテラスに手をかけた。私の頭一つ分下にミストレの顔はある。灯りに照らされた顔はやはり私よりドレスに相応しい。
「ミストレは踊らないのか?」
「だめだめ、あんなのドレスを着た子豚さ」
少し音楽が洩れている。苦い顔をしたミストレは舌を出して嫌悪感を表した。お眼鏡に適う女の子はいなかったらしい。ふうん、と相槌をうってぼんやりと夜空を見上げた。満月が煌めいていたが、パーティーでダンスに夢中になっている人は気付かないだろう
「じゃあさ、サッカーしようぜ!ダンスなんかより、サッカーがしたいよな」
今のミストレならサッカーに付き合ってくれるかもしれない!淡い期待で見つめるが、ミストレは呆れた顔をして馬鹿にしたように溜息をついた
「本当にサッカー馬鹿だね、折角似合ってんのにさ」
ミストレは人を褒めない人間だ。驚いて少し下にあるミストレの瞳をみると、意地悪そうに目を細めた。にやりと笑う口元は悪い魔女さながらだ
「サッカーはしないけど、退屈してるなら誘拐してやるよ」
一歩下がったミストレは私に手を伸ばした。テラスに足をかけて飛べということだろう。ドレスを着ているというのになんと無茶な男だ。挑発的に笑うミストレに私も笑いかえして膝までドレスを持ち上げた。
「勿論、12時になっても楽しませてくれるんだろ?」
背後の音楽も明かりも身体も投げ出した。ミストレは細い身体で難なく受け止めると2・3回ってから私をゆっくり下ろした。まるで劇のようだと思っていると、それから恭しく跪いて手の甲にキスを落とした。
「参りましょうか、シンデレラ」
真面目な表情のミストレに心臓がドキドキして言葉が出て来なかった。不思議に思って心臓を叩くとミストレはやっぱり意地悪く笑っていた。