君の夢をみた

気怠い身体で天井を見上げているが無機質なだけの白い壁紙は夢の名残すら浸食していきそうで再び瞼を下ろした。優しい穏やかな日差しがあの丘を照らして、無邪気な彼がボールを追いかける夢。なんてことのない風景であると周囲は笑うだろうが、価値観は違うからしょうがない。しかし、俺にとってはこの上ない幸せな夢だったのだ。

もっと見ていたいと夢の続きを望むが、すっかり覚めてしまった脳は先程の夢を繰り返す。幸せなはずなのに夢の終わりはいつも寂しい。出来ることなら手を繋ぎたい、ゆっくり目は上げずに伸ばした腕はやはり彼に触れることはできず、あの日と同じように空をきった。夢は夢だった。

「…円堂守」

呟いた名前に返事はない。生活必需品しかない部屋を窓から入った風が撫でる。夢とは違い、現実の日差しは脳に優しくない。白く眩むような日差しを瞼を通して感じ、現実に無理矢理起こされている錯覚に陥る。半ば意地で怠慢に瞼を持ち上げると、朝日は思っていたより強い。夢から切り離すような日差しに思わず自嘲してしまう。人間は夢の中では生きられないのだ。

ぐしゃぐしゃと前髪を書き上げる。昨夜自分自身が壁にかけた喪服が存在感を放っていた。黒は陽射しに負けず黒いままである。夢の中で走り回っていた円堂は過去の話で、もうこの世界に円堂はいない。円堂のいない世界はなにも変わらないまま3年も過ぎてしまった。時間と世界は人間に無情だ


コンコン、と扉を叩いて起床を促す音がする。少しでも時間に遅れたら扉を蹴破るミストレであるが、今日はしない。この日はミストレもエスカバも無表情に朝食を食べて無言で円堂が眠る墓へ歩く。もう3回も同じ日を繰り返しているから、それが習慣となったのだ

「いま行く」

小さな返事をして、ベッドから降りた。窓の向こうの景色は今日も変わらない。脳裏ではまだあの日の円堂が笑っている。脳と身体が別々の生き物のようだと考えながら、少し色褪せたドアノブを握る。

テーブルに座っているであろう2人に夢の報告をすれば、モノクロだった夢は来年の今頃にはカラフルになっているだろうか?そんなことを考えているうちにも、世界は今日もまた円堂守のいない日々を続ける。



♪Shallow Sleep
 
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