「ヒロトー!サッカー行こうぜ!」
「うん!」

放課後、守の声が教室に響く。取り巻きに挨拶を済ませた守が早く早くと急かす。私はわざとゆっくり荷物を纏めて、ゆっくりと守の後を着いていく。

「ヒロト、時間がなくなるぞ!走れーっ!」

「あはは、サッカーは逃げないよ。それに、急いだら守と豪炎寺くんとの時間が長くなるじゃない」

痺れを切らした守が私の腕を取って走る。最近の楽しみはこれだ。守から手を繋いでくれるから、私は態とゆっくり行動している。

「ヒロトだっていつも一緒にいるだろー?」
「うん、そうだね」

私の感情を理解しつつある守は、やはり変わらずに接してくれている。私は繋がれた手をみて微笑む。

「守、だあいすき」
「知ってるよ」

守がこちらをみたのを合図に、2人で手を繋いだまま走り出した。なんだか楽しくなって笑う、独占したい好きから友情の好きになるのは難しいけれど、時間を掛ければまだまだチャンスはある(と思う)




「あー!また円堂さんとヒロトさん手を繋いでますよ豪炎寺さん!俺たちも繋ぎましょうよ!」
「…」


やはり先に着いている男子校組は、相変わらず虎丸が豪炎寺を狙っている。豪炎寺は目を伏せて聞いていないふりをしている。


「もしかして豪炎寺くん、まだ守と手を繋いでなかった?握手処女は守がいいとか?そうだったらごめんね?守の握手処女奪っちゃって!」

意地悪く豪炎寺に言えば、図星だったのか滅多に変えない表情を変えて、驚いたような照れたような表情をした。それに虎丸がいち早く反応する

「えーっ!じゃあ豪炎寺さんの握手処女は俺にください!」
「や、やめろ虎丸!」

公園で追いかけっこを始める2人を眺めれば、守も楽しそうだった。

「待って下さいよー!豪炎寺さーんっ!」
「止まれ虎丸!」

豪炎寺と守の仲を邪魔する私と虎丸だが、私は守が大好きなので、もう守を泣かせるような真似はしない事を誓った。

「仲が良いなあ、あいつら!」

恋に落ちた守の笑顔を曇らせる人間がいるなら容赦しない。豪炎寺は気に入らないが守が好きだと言うなら、我慢する。

「ねえ守」
「うん?」

「豪炎寺が浮気したり守を泣かせたら、私の所に来てくれる?」

守はうーん、と考えてから、答えた。

「豪炎寺がそんな事出来ないくらい、愛してやるから大丈夫だな」

それは私が一番嫌いで、だけど大好きな守に望む答えだった。私は握った手を強くして笑う。

「でも、ヒロトも虎丸も同じくらい大好きだからな!」

どこまでも優しい守。大きく頷いたら、こちらに逃げて来た豪炎寺が目に入った。



「よーし!じゃあみんなで手を繋ぐかー!」

守の大きな声に虎丸が素早く豪炎寺の手を握った。困ったように笑ったが、豪炎寺は守に優しく手を伸ばす。

守は少し照れたように笑ってからその手を取った。公園には4つの影が並ぶ。

出来れば守と豪炎寺の手が離れれば私にとっては一番最善であるけれど、守の照れたように嬉しそうな顔をみれば、やはり守の最善が私の最善になるのだ。

虎丸がどう考えて結論を出したのか私に知る由もないが、きっと似たようなものだろう。

「豪炎寺さんの握手処女貰っちゃいました!今日は記念日ですね!豪炎寺さん!」
「…」

前言撤回、虎丸は計り知れない。虎丸に期待。

「なぁ、ヒロト」
「うん?」

大きな瞳がこちらをみる。そこに写る私の表情が穏やかで、自分に驚いてしまった。

「ありがとな」
「…」

守の感謝の意味が取れないまま守が走り出した為、私は考える暇もなかった。しかし、それでいいのかもしれない。

曖昧な愛の形は枠に嵌らない。守の感謝の意味も、私が笑う理由も、豪炎寺が悔しそうに、けれどどこか穏やかな顔をしているのも、虎丸が相変わらず豪炎寺しかみていないのも。

それが愛で、友情であるのだろう。4つの影は勢い良く、高く跳ねた。

 
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