職員室に連れて行くと、クラスが同じであることが分かった。今日は本当に幸せだ。きっとこれ以上の幸せはない!
「良かったあ、改めてよろしくな!」
「うん!」
守も安心したようにへにゃりと笑った。同じクラスであるから、また一緒に案内しながら行動する。今度はHRが始まっている時間だから、あまり大声を出さないように会話をした。
「…右手と右足が一緒になってるよ、守」
「うう、女子ばっかなんだろ?緊張するよ」
教室が近いと知らせれば、守は行進のような動きをしながら歩く。本当に緊張しているらしく、口元も引き締まっている
「平気よ、守なら」
本当はクラスの女の子なんかいらないって言いたいけど我慢我慢。励ますように声を掛ければ、数回深呼吸をした守が拳を握った。
「ヒロトが言うなら、大丈夫な気がする…!」
力強く頷いた守を連れて教室のドアの前に立つ。先ずは私からだと考え、とりあえず扉を開ける
「先生、連れて来ました」
「ああ基山さん、ご苦労さま。円堂さん、入っていいわよ」
担任はHRで既に転入生が来ることを知らせていたらしく、黒板にでかでかと名前が書いてあった。文字を眺めつつ自分の席に戻ると、守がギクシャクしながら教卓の前に立った。
「え、円堂守です!趣味と特技はサッカーです!よろしくお願いします!」
大きな自己紹介にクラスも暖かく拍手をする。私も周りに負けないくらい拍手をした。守はそれをみて太陽のような、私が恋に落ちた笑みを見せ付けた。
「(かわいい、かわいい、守)」
身体の底から湧いて来るような感情を感じながら、私も守に笑った。
「守、放課後は予定ある?」
今日1日で守の魅力に惹かれた人は多いだろう、ついさっきまで取り巻きがいたのだから。やっと荷物を纏め始めた守は、照れたような笑みを浮かべて頷いた。
「ああ、豪炎寺とサッカーするんだ」
「豪炎寺?」
ざわざわと嫌な予感が背中を往復する。照れるその表情は恋をしている人しか出来ないそれだ
「うん。隣の男子校に通ってるやつで、付き合ってるんだ。恥ずかしいから周りには秘密な!そうだ、ヒロトも一緒にサッカーしようぜ!」
吐き気がした。目眩もした。守がまさか、そんな!男と付き合っているなんて、嘘よ。嘘だと言って欲しいのに守はニコニコしたまま私の返事を待っている。
「…うん、私もサッカーしたい」
引きつった笑みだったことは自分が一番分かっていたが、守はサッカーができることを喜んで気付いていないようだった
「…豪炎寺って人のこと、好きなの?」
「もちろん!あ、恥ずかしいから秘密だぞ?」
恋をする女の子はそれだけで可愛らしい。その対象が私でないことが悔しくて悲しくて泣きたくなる。瞳孔が開いたままの私に気付かずに守は笑う。その笑顔をみていたいのに、私ではない誰かを思って泣く彼女の笑みは嫌いだと思った。
「(欲しいよ)」
荷物を纏め終わった彼女は嬉々として教室を出ようとする。私も平然を装いつつ跡を追った。
守と一緒に歩くと公園に辿り着いた。公園にある広いグラウンドでは2人の男がサッカーをしていた。
「おーい!豪炎寺ーっ!」
守が大きく叫ぶと、サッカーをしていた2人はこちらを向いた。長身の男と低い男、どちらかが守の、と考えるだけで作った笑みが崩れそうになる。
「円堂」
「豪炎寺さん、この人ですか?豪炎寺さんの彼女さんって」
守に連れられて走ると、小さい男が守をみた。その瞳の意味を私は知っている。守は照れたような笑みを浮かべ、それを幸せそうに眺める豪炎寺という男は紹介を始めた
「ああ、俺の恋人だ。円堂、こいつは宇都宮虎丸。俺の後輩だ」
宇都宮虎丸は一礼をして礼儀正しいように振る舞っているが、瞳は正直だ。
「よろしくな、虎丸!私は円堂守。こっちは基山ヒロト、俺の友達!」
「よろしくお願いしますっ!」
私にも一礼した宇都宮虎丸は私と目が合うと意味深な笑みを浮かべた。やはり、こいつからは同じ匂いがする。
豪炎寺と守が仲睦まじく話す様子を一見してから、私は宇都宮虎丸に手を伸ばした。
「よろしくね?」
私と握手をした虎丸は、悪魔も驚く笑みを浮かべて笑った。
私は守が欲しい、虎丸は豪炎寺が欲しい。ならば協力するのが都合がいい。協定を結ぶ握手を交わせば、仲が良いな!と呑気に守が笑った。