柔らかい、と円堂はぼんやり思った。貧血で倒れた円堂を照美が助けたようだ。長い金糸の髪が頬にあたってくすぐったさを感じた円堂は微笑んだ。照美はそんな円堂の頭を撫でる。
「起きた?」
「…うん」
「いま3限が始まったばかりだよ」
照美の冷たい指が頭や瞼を撫でる。甘くていい匂いがする彼女は自分とは身体の構造が違うのかもしれないと時々円堂は考えていた。
「…眠たいなあ」
「まだ気分が悪い?」
「ううん」
照美は円堂を甘やかす癖があった。癖というよりは、彼女の愛し方で生きがいであった。再び目を閉じた円堂を母のように優しい笑みで見守る。
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
すぐに寝息をたてた円堂を飽きることなく撫でる。円堂が授業を受けたくないというのならば照美はこのまま動かないだろう。円堂の意志を何よりも尊重し、円堂が幸せでいられるならばそれが照美の幸せだった。足の痺れなど、円堂の幸せの前では霞んでしまうのだ。