いくら円堂が恋愛に疎いとて、苦手な人物があった。そいつは円堂が珍しく1人でいるときに現れる。

「やあ、円堂守」
「!、涼野」

やはり吹雪を連れて来るべきだったか、と思考する円堂を涼野は冷たい瞳でみている。視線は円堂の四肢。うっとりと眺める涼野の視線を感じとった円堂は苦笑いして距離をとる。

「君に四肢はいらないよ、わたしがちゃんと面倒をみてあげるから」

「サッカーが出来なくなるだろ?」

涼野はミストレと佐久間と並んで厄介だ。足と手がなくなったら困る、どうやって涼野から切り抜けようかと考えていると、後ろから抱き付かれた。否、抱き上げられた

「わ!源田!」

「しろちゃんがまた泣き始めたから迎えに来てみれば…、風子ちゃん凝りてなかったの?」

源田は身長が高くて姉ような存在だ。クラスでも頼られている。源田の母性本能というやつは円堂を過剰に守りたがる。行き過ぎではあるが、危害を加えられるよりは安全だ。

「うるさい、円堂守を寄越して」

源田に比べて涼野は小柄である。抱き上げられた円堂を涼野に届かないように担ぎ上げると涼野は悔しそうに顔を歪める。源田は円堂に危害を加える人間から円堂を守ることを優先するから、涼野が危険リストに載っているのは当然だった。

「私が守ちゃんを守ってあげるの、だから風子ちゃん諦めて」

「腕を落として足を切れば円堂守を守りやすくなる、お互いの利益だ」

円堂は思わずゾッとした。源田が賛同してしまえば体格的に勝ち目はない。不安げに源田をみると、源田は円堂を安心させるように微笑んだ。

「大丈夫、わたしは守ちゃんとサッカーがしたいから」

「…」

涼野は欲望に忠実でない人間が嫌いだった。己よりも円堂を優先して愛されたいというのか、吹雪にしろ基山にしろ、結局は己の欲望に忠実な人間が結果的に円堂の傍にいるではないか。自己満足で愛を語ることが涼野は大嫌いなのだ。

「…えっと、涼野」

抱きかかえられたままの円堂は涼野に声をかける。源田は降ろすつもりはないらしくそれを見守る。

「私は涼野ともサッカーがしたいから、腕も足もあげれないんだ」

「…じゃあ、」

涼野は円堂に歩んだ。源田が少し警戒するが、円堂は涼野に指を伸ばした。握手をして平和条約を結ぼうとしたのだ。しかしそんな円堂の指を無視した涼野は、円堂の大きな眼球を舐めた。

「目をちょうだい」

全く諦めていない。源田が低く唸ったのを円堂は気が遠くなる中で聞いた。


 
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