出て来た風介と守はとくに変わった様子はないようだった。部屋を出た後はなにも話さず、晴矢も不審がっている


「父さんと私はヒロトと行くから、あとのみんなはバスに乗りなさい」

「はーい」
「円堂さん、隣に座っていい?」
「ずるいずるい」

俺は式場に運ばれるらしい。脱け殻に引っ張られる形で俺は霊柩車に乗った(?)助手席の父さんは泣きも笑いもせずに遠くをみていた。瞳子姉さんもなにも言わず、まるで俺のようだった。



火葬場はホテルのように広く、小さい子たちははしゃいでいた。喪服のまま走り回るのは何だかシュールで面白いが、俺が人望のない兄みたいなので少しやめてほしかった。

やめてほしいが、それでも可愛い年下の弟妹だ。だいぶ脱け殻から離れられるから見守っていると、晴矢が風介に話し掛けていた。

「おい、風介」
「なんだい」

晴矢は何かを言いたそうな表情で、風介も分かっているようだ。守は遠くの椅子から子ども達を見ている。とくに動きもないので俺は2人に着いて行くことにした。

「おかしいと思わないか?」
「…何がだい」
「俺はやっぱり兄さんが自殺するなんて考えられねえ」
「しかし事実、医者も警察もそう言っていただろう。」

晴矢の言葉でうっすら霧でぼやけていた記憶が晴れる気がした。死んだ、俺が自殺?

そんなはずない、なぜなら楽しみにしていたからだ。守を紹介するのが、守と将来を誓った未来が、楽しみだったのだから。晴矢の言う通りだ、俺が自殺したなんて考えられない!

「なにか、引っかかるんだ…」
「漫画やアニメの見過ぎさ、それに医者や警察が言ったことを私たちが覆せる筈がないよ」

考える晴矢と否定する風介、そこに新たな人物が入った

「やあ、何の話をしてるんだい?」

ヒロトだ。晴矢は考えていたことをヒロトに話した。風介はどこに行くわけでも、口を挟むわけでもなくただそこにいた


「ふーん、晴矢は他殺だって言いたいの?」

真っ直ぐなヒロトの瞳に晴矢が言葉を詰まらせる。俺に記憶が戻れば、ああでもなにも出来ないのではしょうがない

「…少なくとも、自殺じゃないだろ」
「じゃあ晴矢は誰が犯人だと思うの?」

「…」

言葉を躊躇う晴矢に風介が口を開く。
「瞳子姉さん、お前、円堂守」

風介の言葉に晴矢が少し頷き、ヒロトは目を大きくした。それは俺も同じだった。


嗚呼、そんな馬鹿な!


「冗談、何で俺が犯人扱いされてるの」

ヒロトが晴矢と風介に問う。確かにヒロトが俺を殺したとは思えない…事もないが、多分それはない。

ヒロトが守に会ったのは昨日が初めてだ。メールなんかは見たらしいが文面で人柄を気に入るのは難しいだろう。

俺が死んだのが今日(紹介後)なら、ヒロトも風介も怪しくなるが…

「円堂守が欲しくなって、兄さんを殺した」
「動機充分だろ」

「酷いなあ、アリバイがあるのは君たちがよく知ってるだろう?俺たちは兄さんが死んだ時間、一緒に帰ってたじゃないか」

「そこが怪しい」
「ああ」

ヒロトたちは部活に入っていないから帰宅していた時間はおそらく3時頃。俺の3時は大学だが、昨日は2限で終わったから3時は自宅の筈だ

紹介するのを楽しみにしていた明日までの時間、俺はなにをしていた?


「冗談はさておき、瞳子姉さんってどういうこと?」

それもないだろう。無口で犯人キャラが似合いそうだが、誰より慕ってくれていたのは瞳子だ

「兄さんがあいつと付き合ってる事を知ってショックを受けた姉さんが兄さんを、とか」

「普通は円堂さんじゃないじゃないかな?」
「フン、私なら見知った人間が悲しむよりも、逆の方がいいな」

「風介も犯人になるには充分じゃないか」
「こいつには殺せないだろ」

納得行かないヒロトだったが、風介は晴矢の言葉の意味を自ら明かした。小さい頃からの、悪い癖を

「私は他人から奪うのが好きだからね、殺すなんて考えられない」

「な?」
「そうだったね」

ドヤ顔の風介に呆れ顔の2人。本当に風介は困った子供だ、昔からなにも変わってない

昔からなにも…あれ?


「あれ?じゃあ何で風介は円堂さんを狙ってるの?」

俺が疑問に思った事をヒロトが尋ねる。そうだ、なぜ俺が死んで誰のものでもない守を風介が欲しがるんだ?

みんなで風介を注目すれば、風介は珍しくとても可愛らしく微笑んだ。お利口さんのような、笑顔だ。

「ふふ、他人のものが好きだからさ。…円堂守はまだ兄さんが好きだし、逆もね。これは立派な他人のモノだろ?」

風介は俺が浮遊している所をみて、俺の目をみて、笑ったのだ。

まさか、もしかして、風介には、俺が、

み え て る ?


「ふふ、」


嗚呼、何と

 
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