大学生/吉良ヒロト・円堂
高校生/瞳子
中学生/エイリア



吉良ヒロトは死んだ。自覚していなかったが、案外たくさんの人に愛されていたらしいその人物は、瞼を閉じたまま動かない。線香の煙がいくら漂おうが、眉も潜めず灰になるのを待つだけであった。

「…」

吉良ヒロトには恋人がいた。理解のない人間からは後ろ指を指されることもあったが、男同士で愛し合っていた。名前は円堂守、彼は僕の遺影を呆然と眺めながら座っていた。僕の家族にはまだ男同士で付き合っていることを言っていなかったので、彼は仲の良い友人として説明したようだ。

今日、そのことを伝えるつもりだったのに、なぜか僕、吉良ヒロトはは死んでしまったのだ。


嗚呼無念



「…あの、これ、瞳子姉さんが良かったらって」

「…ありがとう」

脱け殻の近くに座っていた守がヒロトからお茶を受け取った。僕の家はさまざま事情を追った子供を預かる施設で、このヒロトもまたそうだった。同性同名の名前のせいなのか、僕たちはとても似ていた(らしい)

確かに、死んでからみた彼は俺とよく似ていた


「俺、兄さんに聞いたことがあります。円堂さん、兄さんと付き合っていたんですよね?」

「…、そうだよ。今日伝えに行くつもりだったんだ」

死人に口無し、俺はヒロトに守と付き合っている事を言ったことはない。生き返れたなら、問い詰めてやろう。なぜ、どこで、どうやって知ったのかと。

ヒロトの額を殴りたくなったが、守は静かに俺の遺影を見上げると真っ直ぐに言い放った。

「ヒロトは死んだけど、いまでも好きなんだ」

守の言葉にヒロトが少し瞳を大きくした。さすが同性同名、という所か。守をみる瞳に欲が入ったのを俺は見逃さなかった。

「…そう、なんですか」

基山ヒロトは小さく呟くと守の赤くなった目元をみて頬を赤くさせた。こいつ、守に惚れたな!

掴み掛ろうにも脱け殻からあまり離れられないらしく、ゴムのようにビヨンビヨンと基山まであと数センチの距離と抜け殻との間を往復していた。

次にこいつが線香を上げに来たら頭叩いてやる、それか供え物の果物落としてやる。びびって守に幻滅されてしまうといいよ。そんな事を思いながら、仕方無く棺の上に座った。

嗚呼、暇だ。


守は基山ヒロトが去った後も遺影の前に座って俺を見つめていた。(実際には遺影であるが)

触れられないというのは辛い。死ぬことが分かっていたなら守にもっと触れていたのに。そんなことを思っていると、赤い髪をした南雲が喪服を纏って現れた。

南雲は線香の残りを確認すると、手際良く新しい線香に火を着けて手を合わせた。南雲は不良だと言われていたが、一番良い子だな、そっとチューリップに触れると、南雲が飛び退いた。飛び退いた、というよりは腰が抜けたのかな。



「いいいい今、頭触られたっ!」

動揺して畳を這うように逃げる南雲に守が身体を向ける。触れられないと思っていたが、どうやら分かる人には分かるらしい

「どうした?」
「あ、頭!あたま!」

守は動揺して混乱している南雲の頭に触れた。南雲はそれによって平静を取り戻したらしい。近かった円堂から距離をとった。

「大丈夫か?」
「あ、ああ、…」

南雲は頭を再度自分で撫でると、俺の遺影を恐る恐る見上げた。ごめんね南雲、君が幽霊の類が苦手だという事を忘れていたよ。

「それより、あんたここに来てから何も食べてないだろ」

いま俺の脱け殻は実家の広間にある。明日には式場に運ばれるらしいが

瞳子は施設の子供たちの喪服を探したりとやってくる人々の対応に忙しそうに駆け回り、父さんはお偉いさんの嘘っぽいお悔やみを聞き疲れたようだ。

「ごめんな、こんな時間までいて。もう帰るから「良ければ今夜は泊まって、一緒に式場に行ってくれませんか、円堂さん」

一段落着いた瞳子が立とうとした守を引き留める。守は何か口を開こうとしたが、ヒロトが持って来た俺のパジャマと涼野のおにぎりをみて眉を下げたまま承諾した。

「ごめんな、ありがとう」
「…いえ、それより、あの…」

それを畳に置くと、瞳子は誰にも聞こえない声で守と会話した。

「…円堂さん、は兄と付き合っていたんですよね?」

なぜどいつもこいつも知っているんだ、情報漏洩どころじゃないぞ

「…ああ。本当は今日、伝えに行くつもりだったんだ」

「、そうでしたか」

瞳子は嫌悪感を微塵も出さずに円堂をみて少し顔を綻ばせた。円堂は不思議そうにみる

「円堂さんが兄さんに向ける視線が優しかったので、付き合ってたんだろうなって思ったんです。寝る部屋に案内します、それともまだ傍にいてくれますか?」

瞳子も知らないうちに大人になっていたらしい、もし今日死ななかったらどんな未来が待っていたのだろう

「…ありがとう、お言葉に甘えて、休ませて貰おうかな」

「はい。みんなー案内してあげて」
「はーい!」
「俺もいくー!」

守を遠巻きに眺めていた施設の子供たちも瞳子に言われて守に駆け寄った。守も優しげに微笑んで小さい子供たちと奥へ消えてしまった。


嗚呼静寂

男同士でも施設の子供を愛情を持って育てれば我が子のように可愛いに違いないし、父さんだってきっと納得してくれたはずだ。

なぜ死んでしまったんだろうな、俺

溜め息も出ないまま、ぴくりとも動かない脱け殻を眺めた。

「兄さん」

ぽつり、今まで忙しく動き回っていた瞳子が今日初めて俺の前に座って涙を零した。強い子だと思っていたけれど、泣かせてしまったね

南雲に触れた時のように頭に触れ、涙を拭ってみたが瞳子は何も感じないようで、静かに泣いていた。



嗚呼、

 
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