懐かしむ
:なつかしく思う
僕たちはたぶん、ずっと前から繋がっていたんだと思う
だって、視線も、繋いだ指も、君の呼吸も体温も声だって、全部昔から知っているように馴染むから。
『ぜんせ?』
円堂くんは大きな目をぱちりとして、考えるような顔をした。
『そう、前の世界って書いて前世』
『……前世、』
予想していた事だが、やはり円堂くんは前世を知らない
早く教えてあげたい気持ちと、悩むような顔をもっと見ていたい気持ちが混ざり合う
うーん、と声を上げた円堂くんに思わずくす、と笑ってしまう
『な、なに笑ってんだよヒロト』
『はは、ごめんごめん』
ジト、と睨まれたが、全然怖くない
馬鹿にされたと思っているのか、僅かに頬が赤くなっている。
『勿体振らないで教えてくれよ』
『うん、いいよ』
円堂くんは興味深そうに僕の話に耳を傾けた。
『前世って言うのは、僕たちが生まれる前に生きていた世界の事なんだ』
『……へぇ、』
円堂くんは数学を受けている時のような顔をしている、全く分かっていない顔だ。
『例えば、前世で円堂くんは野球をしていたかもしれないし、吹奏楽部だったかもしれない。…それに、時代が最近だとも限らないから、戦争で兵士だったかもしれない、ヨーロッパの貴族だったかもしれない。色々な可能性があるんだ』
『へー、じゃあ前世じゃ女子だった事もあんのか?』
『その可能性だってあるね』
すごいな、と円堂くんが感心したように言った。
『そんなに色んな経験があるなら、覚えてたらすごく楽しいんだろうな』
想像を膨らませる顔は楽しそうで、僕も目を細める
『そうだね、』
『サッカーしてない俺がいたのかなぁ、』
彼なら、前世でもサッカーをやっていそうだ、容易にその様子が浮かんだ
『円堂くん』
『ん?』
『僕はね、前世でもずっと円堂くんの傍にいたと思う』
『そうなのか?』
円堂くんがキラキラした瞳で俺の顔を覗き込む
『うん、勿論前世のことは覚えてはいないけどね。』
『どうしてそう思うんだ?』
『覚えてないから、どう思おうが自由なんだ。』
『…強引だなぁ』
困ったように、それでも嬉しそうに、彼は笑った。
『前世でも、きっとこんな風に手を繋いで、隣に座っていたんだよ』
『…なんか不思議な感じだな』
僕の体温より、円堂くんの方が高いからか、とても暖かく感じた。
『記憶はないけど、身体は覚えているんだよ』
『そっか』
感覚を確かめるように強く握り、円堂くんは笑った
『それに、次の世界があれば今は前世でしょ?』
『!そうだな!ヒロト頭いいな!』
円堂くんは笑う、やっぱり僕はずっとずっと前からその笑顔を知っている
きっと前世でも一緒にいたから、こんなにも懐かしく感じるのだろう、と思う。