める
:望みをすてる



楽園と地獄は紙一重である、と今日の格言染みた事が脳裏に浮かんだ。

『…円堂ー』

小声で未だに眠る我らがキャプテン円堂に話し掛けるが、身動ぎ一つしない

ザザン、と波の音が響く

海は暗さを増していき、人は俺、綱海条介と円堂しかいない。

『あー、大目玉喰らうなこりゃ』

事の発端は、俺を呼びに来た円堂が一緒にサーフィンを始めたからだ

疲れるまで波に乗って、少し休憩をしようと木陰に移動した時に、糸が切れたように円堂が俺の膝で寝始めたのだ

野郎の膝なんて寝心地良いわけがないのに。

動くと起こしそうで、動けず仕舞い

いい波が目の前に広がっても、自分を抑えて見送った

これが円堂でなければ、直ぐ様膝から追いやっていただろう。

『はー、』

それにしても良く眠っている

ツルツルした頬に指を滑らせてみる

ああ、年下なのに欲情してしまいそうになる。

でも、円堂はお気に入りの後輩やサッカー部の連中が恋慕っている相手だ

『どうするかな』

最初は遠くから争奪戦を見ているだけだった

明るくてノリが良くていいやつ、ってのは思っていたけど、それが恋愛に発展する感情とは違うと思っていた。

しかし、それがだんだんと主張し始め、最近では褒められたり、挨拶したり、目が合うだけで1日が幸せだと感じる

俺にベクトルが向く確率は極めて低い、そして競争率はかなり高い

そう考えると、俺の膝で寝ている事が奇跡に思えた。

『円堂』

諦めてしまえと何度なく思った、諦めれば気兼ねなく話せる。

恋人になれなくても友人、年上のいいやつで済んだ

でも、いくらそう思えど、馬鹿な俺は円堂を見ている

『…』

恋人になれなくてもいい、なんて善人じゃない。

円堂に恋人が出来ても素直に喜べないかもしれない

『…そろそろ、本当に暗くなるな』

一度海に入って、身体は濡れている

いくら温かいといえ、夜になれば冷える。風邪をひかれたら困る。

『円堂』

今度は少し大きい声、すると円堂が少し身動いだ

『そろそろ帰んねぇと、食いっぱぐれるぞ』

『……綱海?』

『ああ』

ぼんやりと円堂が瞼を開けた

『…海の匂いがする』

『海だからな』

『海は綱海の匂いがするな』

円堂が寝ぼけたまま笑った

心臓がうるさい

『なぁ円堂』

『ん?』

『俺さ、やっぱ諦めるの無理だ』

『何を?』

円堂がむくりと上体を持ち上げだ

『そのうち分かる!』

円堂は不思議そうな顔をした

サッカー部のやつらに謝らないとな

『(諦めんのは無理だ!)』

俺も明日から円堂争奪戦の仲間入りだ




 
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