きしめる
:力を込めてしっかりと抱くこと


ガゼルは夜中に突然泣き出すことがある。大泣きではないが、表情は変えずにボロボロと涙だけを流して俺に縋るように泣きつくのだ。

「(まだ泣いてる)」

珍しく2夜連続でガゼルは部屋にやって来た。ドアをノックされたので慌てて迎えれば、やはりガゼルは泣いていた。俺は今から寝ようと思っていたので、眠気が意識を持ち去ろうとしていたが、泣くガゼルを放ってはおけず、部屋に招き入れた。


「ぐすっ」

ベッドに寝転び、胸の上でガゼルが啜り泣くのを頭を撫でながらぼんやりと見守る。


初めてガゼルが泣く姿をみて、正直綺麗だと思った。普段は表情をみせないガゼルが声のない赤ん坊のように泣く姿は俺の心を大きく揺らした。

「…なあガゼル」
「……なんだい、」

胸がガゼルの涙で少し冷たくなってきたころ、俺は初めてガゼルに質問をした。聞いたらガゼルは俺の部屋に来なくなるのではないかと思うと、怖くて聞けなかったのだ

「どうして泣くんだ?なにかあったのか?」

俺の質問にガゼルはゆっくりと身体を持ち上げて、俺の顔の横に手を付いた。猫のような瞳は涙に濡れている。ガゼルはなお涙を流しながら口を開いた。

「……欲しいんだ」
「欲しい?」

ぽたぽたとガゼルの涙が頬に落ちて冷たい、照明がないガゼルとの距離は近いが、綺麗すぎて目にみえない

「愛が欲しい」
「愛?」

「円堂の心臓が動くのを聞くと安心する、母親のように撫でられるのが心地良い、…迷惑ならもう来ない」

来ない、とガゼルは言ったがやはり泣いたままで、しがみついたままでいる。意地を張る迷子のようだ


「…迷惑じゃない、ガゼルが泣くなら俺がこうしとくから、泣いていいぞ」

ぐずぐすとまた泣き始めたガゼルの頭で撫でながら、朝が来る窓辺からガゼルを守るようにシーツを被った。

抱き締めたガゼルの身体は冷たいが、暫くすると暖かくなるだろう。愛を与えるようにぎゅーと抱き締めれば、ガゼルは小さくお礼を呟いてまた泣き始めた。


 
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