溶け合う
:溶けて、混ざり合い、ひとつになること
「はいキャプテン、あーんして?」
目の前で笑う吹雪が俺に向けているのは、湯気を立てた温かくて美味しそうなシチュー
「…、ふぶき」
風邪をひいているわけではない、骨折しているわけでもない、俺の両手は椅子に縛られている
「ほら、食べなきゃ冷めちゃうよ」
「んっ」
俺の言葉を聞こうとしない吹雪は、スプーンを無理矢理口に入れた。舌に温かさと味が広がる
「あーほら、ちゃんと口を開かなきゃ、零れちゃった」
ニコニコと笑う吹雪は言葉こそ叱っているようにみえるが、俺が零したことを嬉しく思っている風な口振りだった。
「ふふ、美味しい?」
「…、ああ」
吹雪は食事の時間になると俺を拘束して食べさせる。
練習中や他の時間は普通だが、俺が何かを食べようとすれば吹雪がその役を担うのだ
「キャプテン可愛い、ふふ、まるで赤ちゃんみたい!」
嬉々とする吹雪は俺が飲み込むのをみてから再びスプーンにシチューをすくった。
「こうしてキャプテンの胃に入ったものは、キャプテンの為にだけ生きるんだよ」
口に入れられたらものをもぐもぐと噛めば、吹雪は頭に手を置いて撫でた。
「それってすごい愛だよね?」
「…あ、ああ」
俺にはよく分からない。吹雪も知っているからまた俺の口にスプーンを入れた。
しかし今度はいつまで経ってもスプーンを引き抜こうとしない
「んぅ、…ふふき?」
動揺を顔に出せば、吹雪はスプーンをそのままににっこり笑う
俺は動けない
「キャプテンだけを愛したい、キャプテンの為に生きたい、キャプテンに食べられたい、でもキャプテンとサッカーをしたいから、僕を食べてもらう事はできない」
「血はシチューに合わなそうだったからね、ふふ」
「う、!」
吹雪は口に入れたスプーンを無造作に動かした。口を開けたいが、頭は吹雪に抑えられるので必死に飲み込むしかない
「っう、え"っ…!」
引き抜かれたスプーンと吐き気、吹雪はシチューに、まさか、そんな
口端に伝うシチューを親指を拭った吹雪は自分で舐めると顔をしかめた
「自分の、なんて食べるもんじゃないね」
「ふぶ、っ…!」
椅子をガタガタ揺らして逃げようとするが、吹雪は俺の肩を掴むと笑顔でまた口にスプーンを運んだ。
「ほらキャプテン、僕の分身を食べて?」