拗ねる
:わざとそよそよしく振る舞うこと
「キャープテン」
「…」
「ねえ」
「…」
「寂しいよ」
「…」
円堂の部屋に上がり込んだ吹雪は、ベッドの縁に座って布団にくるまる円堂に声を掛ける。
遡ること30分前のこと、普段通りに話していた吹雪と円堂であったが、笑っていた円堂が突然涙を零したのだ。
『っ、ごめん!』
『キャプテン!』
泣き顔を見られたくなかったのか自室へ走り出す円堂を当然追い掛ける吹雪
円堂は自室へ駆け込み、勢い良く扉を閉めたが合宿所の個室に鍵が付いていなかったので、吹雪は少しだけ躊躇ってから足を踏み入れたのだ。
「キャプテン」
布団越しに吹雪が話し掛けるが、布団からはぐもった嗚咽しか返ってこない。
「キャプテン、泣かないで」
「……もん、」
嗚咽に混じって聞こえた声に吹雪は耳を済ませる。泣きすぎて鼻が詰まって鼻声になりながらも、次は聞き取れた
「…キャプテンだけど、キャプテンじゃないもん……」
はて?、と吹雪は首を傾げたが、頭の回転が早い彼はすぐに答えが分かった。
「まもるちゃん」
「…、」
ご名答、名前を呼ばれた円堂は布団から少しだけ顔を出した。目元は真っ赤でうさぎのようだ
「まもるちゃん、目が真っ赤」
真っ赤な目元とは正反対の吹雪の白く冷たい指先が円堂の瞼を撫でる
されるがままの円堂であったが、涙は消えて笑みを浮かべていた。
「ふふ、まもるちゃんってば嫉妬して泣いちゃうなんてかわいいね」
からかう吹雪に円堂は少し頬を膨らませたが、それでも名前を呼ばれた事が嬉しかったのか、まだ少し泣いた名残のある顔で幸せそうに微笑んだ。