:好き勝手に扱い、楽しむかのように操ること



なんと楽しい事だろう!従順な操り人形のように意思のままに相手を動かせることは!


これはミストレーネ・カルスが幼い頃に覚えた事である。

自らの容姿や能力を使い、他人に崇められ可愛がられ、蝶よ花よと囲われる。そうさせる力をミストレは持っていた。

バダップ・スリードに負けたとはいえ、ミストレは彼に周囲と同様にさせてやろうとは思わなかった。彼は好敵手になったのだ。好敵手は自分の退屈を凌ぎ自分が越えるものだ。ミストレはそう考え、納得した。

そんなミストレの傍にはいつも女子生徒がいた。彼女たちは親衛隊であり、ミストレの楽しみの一つである。彼女たちは自分を好いているから、思いのままに弄ぶことができる。どんなに酷い付き合いをした所で、彼女たちが自分を囲うことをやめない事をミストレは知っているのだ。


『ミストレー!!ボールとってくれないかー?』

いつものように親衛隊の女子を侍らせて校庭付近を歩いていると、目の前にボールが転がってきた。ボールと方向をみれば、そこには円堂守がいた。

『…自分でとったらどうだい?なぜ、僕が?』

円堂守という少年は、バダップに次ぐミストレを"囲わない"人物であった。シュートは褒めるが、それは自分であり自分ではない。女子が黄色い声援を送る中、円堂は次に目をやる。

腹が立った。バダップは好敵手になったが円堂は好敵手にみれない。格下だと納得したいがそんな感情でもない。

円堂はバンダナを少し触ると困ったような顔をしてこちらに近付いて来た。俺は親衛隊の女子に別れてもらい、足元のボールを足でトラップする。

『今日はサッカーしないのか?』

ポンポン、と膝や足首、頭を使いながらリフティングすれば円堂は砂にまみれた顔で笑う。

『サッカー馬鹿とは違うからね』

そんな笑顔を横目にボールを意のままに操れば、円堂が少し企んだ表情をした後に、俺からボールを奪った。

ボールが消えたことで、宙を切った足は虚しく地面を踏みつける。

文句を言いたくなるが、ボールはサッカー部のものであるし、円堂に渡さなければならないものであったから、我慢して口を結んだ。

言葉を発さない変わりに、むすりと表情を歪めたが、それすら円堂は笑って上塗りした。

『ボールありがとな!俺、ミストレが言う通りサッカー馬鹿で毎日練習してるからさ、いつでも来てくれよな!正式入部待ってるからな!』

"待ってるからな"の言葉は円堂が遠くに走り出したと同時に聞こえた。

女の子やその他ならいつまでも俺にひっついているのに、円堂はするりと腕を抜けていく。

苛々するのに、どきどきもしている、俺が円堂に弄ばれているのだろうか

『…上等だ、弄んでやるよ』

思い通りにいかないなんて、有り得ない。円堂だってきっと操ってみせる。



ミストレは入部届を出すために校舎へ引き返す。そんなミストレをみた円堂を除くサッカー部の面々は"ミストレも円堂の手中に落ちたな"とその後ろ姿を眺めていた。




 
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