:きめく
胸をドキドキさせること



『暑いな』

晴天、視界いっぱいの青空を見上げながら円堂が暢気な声を上げた、気がした。気がしたというのは、自転車の2人乗りをしていて、何となく気配を感じたからだ。ちなみに俺は漕ぐのに精一杯で太陽が憎い。

『ああ、』

道が平坦になったのでとりあえず返事をして、ようやく頬を伝う汗を拭う。本当に、暑い。

『なんか、夏!って感じの空だな、サッカーしたいぜ!』

『いつもしてるだろ』

円堂は俺の服のすそを軽く握ってバランスをとっている。焼き尽くさんとばかりに照りつける太陽が地面に影絵を落とす。横目にみるその繋がった影には幸せが詰まっている気がした。

『夏はいいよな、日が長いからさ』

『長くサッカーが出来るからだろ?』

『当たり!』

円堂が足をブラブラさせる。サッカーがしたくて仕方ないのだろう。ちらりと籠に嵌めてあるサッカーボールをみた

『なあ、海、見たくないか?』

『海?見たい見たい!』

円堂は聞き返してから、言葉を理解したようだ。すぐにシャツを引っ張って足をバタバタさせた

『連れて行ってくれるのか?』

『ああ、浜辺で特訓ついでにサッカーしよう』

『やった!ありがとな!風丸』

円堂が笑ったのが分かった、太陽なんかより、ずっと。

頬を伝う汗が心地良い、髪を撫でる風が優しい、緩む頬を隠さずにいると、円堂が背中に額を押し付けた。

『どうした?』

『なんか、風丸と2人で遠くに行くのが嬉しくてさ!』

背中に押し付けられた額が熱い、言葉は出ないが心臓はばくばくと跳ねていた

『俺も、』

やっとのことで出てきた言葉に円堂は笑った、悔しかったので蛇行すれば、円堂は力強く抱き付いた。

自転車は笑い声を乗せたまま海を目指す。

空は青い、夏は始まったばかりだ。



 
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