囁く
:声をひそめて話すこと
『なあなあ風丸』
『どうした?円堂』
キャラバンの席決めで見事円堂の隣をゲットした俺は、にやける口元を押さえて円堂を向いた。
窓側にいる円堂(窓側にしないと隣の基山に邪魔されそうだから、押しやった)の後ろでは、見たことのない街が広がっていた。
円堂は何かを思いついたようにニヤニヤしている、小さい頃からずっと一緒にいた俺は、良からぬ事を考えている事がすぐに分かった
『あのさ!耳貸してくれよ!』
ニヤニヤしている円堂、何か悪戯でも思い付いたのか?と円堂に耳をやると、円堂が顔を近付けた
『(うわ、近…)』
近い近い!とドキドキする俺を他所に、円堂はスゥ、と息を吸って……、あれ?
『 わっ!!』
キーーーーン、脳みそが1回転したような感覚
『っ!!……!!』
普段コート中に響く声が、俺の鼓膜を通って脳みそを揺らす。
基山が隣で羨ましいとか言うのが反対の耳で聞こえたが、洒落にならない
未だに身悶えする俺をみて、円堂は焦って謝る
『ご、ごめん風丸!大丈夫か?』
『だ、いじょうぶだ…』
まだ鼓膜がゴワンゴワン悲鳴を上げているが、円堂を安心させる為にジェスチャーをした
円堂はもう1度謝ると、眉を下げて正面を向いた。
『なあなあ風丸、』
しかし、何かを思い付いたらしく、10秒も経っていないうちにまた俺の肩を叩いた。
『耳貸して!』
いや、ちょっと待て円堂、次また同じ事されたら俺の鼓膜は死ぬ。間違いなく鼓膜死ぬ。鼓膜が円堂の声でなくなるならいい気がするけど、1つじゃお前の声が聞き取りにくくなる。
そんな事を考えているうちに、まだ揺れているであろう脳みそは、さっきとは反対の耳を円堂に出していた。
『違う違う、さっきの耳!』
ト ド メ さしにきただと…!?
だが頼みを断れない俺は、まだゴワンゴワン悲鳴を上げている耳を円堂に差し出した。
どうにでもなれ
さっきと同じ、円堂が近くに来て心臓が跳ねるが、今度は別の意味でも跳ねていた。
鼓膜の前に心臓がやられる。大フィーバーだよ
そして、さっきと同じ円堂が空気を吸う音、覚悟してぎゅ、と目を瞑ると、
『好きだ、風丸』
『………!!』
勢いよく円堂を振り向く
『聴力テスト、聞こえたか?』
照れたように頬をかく円堂が笑った
『…ああ、ばっちりな』
いつの間にかゴワンゴワン悲鳴を上げてた耳は、さっきの言葉をリピートしていた。
『俺も好きだよ』
基山は首を傾げていたが、俺たちは死角で手を繋いだ。