:逃げる
捕らえられないように去ること。
蜘蛛の糸に捕らえられた蝶のようだ
幸せな糸、捕らえられた事にすら気付かれないような糸
円堂守はそんな糸を持っている。
俺はそんな円堂に一種の恐怖を抱いていた。
目の前では、蜘蛛の糸に捕らえた蝶がもがいている。
『どうしたんだ?佐久間』
宿舎裏に座って蜘蛛の巣をみていると、円堂が隣にしゃがんだ。
『…円堂』
『気分でも悪…わ、蝶』
円堂はもがく蝶を発見して指を伸ばした。
いくつもの強力なシュートをとめてきたとは思えないくらいに細いその指は、キラキラ光る蜘蛛の糸を少し崩した
『蜘蛛がいない巣で良かったな』
円堂は蝶を糸から逃すと、こちらをみた。
『…ああ、そうだな』
蝶はパタパタと円堂と俺の間を飛ぶと、どこかへ消えた
蝶がいなくなった巣は、蜘蛛の糸が風に揺れていた
まるで舌を出して次の獲物を狙っているようにみえる
『もう引っ掛かるなよー』
円堂は蝶が飛んだ方に声をかけていた、蝶に学習能力なんてありはしないのに
ぼんやりしていると、少し離れたグランドから休憩終わりの合図の笛が聞こえた。
『やべ!始まる!』
がしりと腕を捕まれ、円堂に捕まれた事を理解すると円堂は走り出した
『佐久間!スピード上げるぞ!』
円堂はまぶしい顔をしていて、俺はただ従う事しか出来なかった。
そう、分かっていた事ではないか。
佐久間は視線を茂みにやった。
視線の先には、さっきの蝶が蜘蛛に食べられていた。
『逃げられやしない』
彼に、惹かれた時点で、俺の運命は決まっていたのだ。
逃げられやしない、逃げられたとしても、きっとまた俺は戻ってしまう。
さっき1度は円堂に救われた、今は羽がもげた蝶のように