:れる
異性に思いをかけること。



円堂さんと豪炎寺さんなら、豪炎寺さんの方がすごい人だと思っていた。

立向居さんやヒロトさんが何故あんなに円堂さんに固執しているのかもよく分からなかった。

円堂さんはキーパーで、キャプテンでみんなを引っ張ってるけど、豪炎寺さんはエースストライカーでチームを勝利に導いて来た。

ストライカーがいなきゃ、試合には勝てないんだと、思ってた。



『キャプテンが風邪でお休み?』

『ああ、昨日雨の中でも特訓をしたからだろう』

鬼道さんは軽く説明をして、今日の練習メニューを告げた

キャプテンがいないから、必然的に今日のキャプテンは鬼道さんになったらしい。

『俺ちょっと貧血かもしれな『なら俺が病院送りにしてやろう』

ヒロトさんがニヤニヤしながらグランドを出ようとしたのを、風丸さんが般若のような顔で止めた

立向居さんはグローブを着けながら、気合いの入ったような、それでも不安があるような顔をしていた。

チームの雰囲気がいつもと違う、薄々そう感じながら、それでも俺はいつも通りプレーしようとグランドに足を踏み入れた。

『円堂がいないから紅白戦はなしだ、代わりに各自シュート練習をする。先ずはランニングからだ。』

監督の掛け声で、2列に並んでグランドを周り始めた

鬼道さんや風丸さんがたまに『あと〜周だ』と掛け声を掛ける、2人は励ますように言ってくれたが、俺の足取りは重かった。

俺だけじゃなく、他の人も、そして声を掛ける人もだ


『(…キャプテンは)』

キャプテンも鬼道さんや風丸さんのように声を掛ける、言葉は同じなのに、やはり違うのだ。

【みんな!後2周だ!】
【ラスト1周!全力で走るぞ!】

80年後の人達じゃないが、やはりキャプテンは呪文が使えるのではないかとさえ思えてきた。

そんな事を考えていたら歩幅が乱れたのか、

『う、わ!』
『っわあ!』

後ろを走っていた綱海さんに踵を踏まれ、べしゃり、と綺麗に前へ倒れてしまった。

『!悪い虎丸!!大丈夫か!?』

『だ、大丈夫です…、すみません俺が余所見してました』

デコがヒリヒリする、周りも止まって俺を立ち上がらせてくれた。

『虎丸!額から血が出てるぞ』

『え?あ…』

言われてみれば、皮膚を伝う液体を感じた。

『本当に悪い…』

綱海さんが土下座しそうな勢いで謝る、俺が悪いのに

『綱海さんのせいじゃないですよ、マネージャーも買い出しなので、俺、医務室行って来ます。』

マネージャーは3人とも買い出しで不在だ、綱海さんの付き添いを断り、俺は1人グランドから出た。

背後からはまたグランドを駆ける音が響いた。



誰もいない宿舎は静かだ。

足音をたててはいけない気がして、俺は静かに医務室(単に薬品が置いてある場所だけど)へ向かった

円堂さんはこんな静寂の中、1人で寝ているのだろうか

『…』

俺は手早く医務室で傷を洗い流し、テープとガーゼを持って飛び出した。


円堂さんの部屋の前で立ち止まる。

控えめにノックすると、寝ていると思っていたが、『どうした?』と返事があった。

虎丸です、と言うのが気恥ずかしくて、俺はドアノブを回した。

『…キャプテン』
扉の隙間から部屋を覗くと、ベッドの上に座るキャプテンがいた。

キャプテンは俺をみると、瞳を大きくした。

『虎丸!怪我してるじゃないか』

『はい、おでこだったので、自分でするのが難しくて』

嘘だ、鏡をみれば誰だって出来る箇所

『絆創膏か何かあるか?』

『持って来ましたっ!』

『よし、じゃあ俺がするよ』

キャプテンに言われるままベッドに腰を降ろせば、お世辞にも器用とは言えない手つきで額にガーゼが貼られていった

キャプテンの指は熱のせいか暖かく、気付けば瞼を下ろしていた。

距離も近い、キャプテンの息使いも聞こえそうだ。

『よし、出来た!』

『ありがとうございます』

キャプテンに会ったら、話したら、やっぱり今日の練習はいつもと違ったと改めて感じた。

『キャプテン』

『ん?』

『やっぱりキャプテンはキャプテンです、早く風邪治して下さいね』

『ああ、明日は一緒にサッカーしような!』

キャプテンは笑った、練習にも試合にも必要な笑顔

得点を決めなきゃ試合には勝てないけど、得点を決めるにはキャプテンが必要

『ちゃんと寝ないとマネージャーさん達に言い付けますからね!』

『げ!それだけはやめてくれよ!』

俺は素早くキャプテンの部屋を出て、そのままグランドまで全力で走った。

何かすごい事を発見した時のような気持ち、どうやら僕はキャプテンに惚れていたらしい。

今はまだ、他のチームメイトより一回り小さいけど

『見てて下さい、俺、本気出しますから』

額に貼られたガーゼを撫で、一人呟いた。




 
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