つめる
:対象から目を反らさずにじっと見続ける


『……、どうしたんだ?』

『何でもないよ』

ミストレーネ・カルスは自分が美しい事を理解している

理解しているから、美しい物の価値が分かる。

理解しているから、美のラインも分かっている。

目の前で対して難しくもない計算に苦戦している少年、円堂守

彼は外観は"美しい"とは離れている。

離れているのに、価値があると感じる

『理解出来ない』

眉間に皺を寄せて円堂守を見れば、彼は少し首を傾げた。

『やっぱこの数式分かんないよなー』

シャーペンを置いた円堂が背伸びをした。

『一緒にしないでくれよ。僕がそんな数式、理解出来ないと思う?』

『…、だよな』

円堂が不服そうな顔をしてまた教科書に視線をやった

肌の白さも、髪の柔らかさも、瞳の色も顔立ちも自分の方が美しい

…自分より美しいもの何て、在りはしないと思うけれど

『(美しいと思うのは何故だ)』

頬杖をしまま円堂を見ていれば、彼がこちらをみた。

『あのさ』

『何』

『そんなに見られると、集中出来ないんだけ、ど』

少し控えめに、ぽつりぽつりと呟きが部屋に響く

さっきまで数式だけを映していた茶色の大きな瞳が、僕を映した

僕の瞳の方が美しいのに、やはり美しさを感じる


『僕は美しい』

『は?』

彼は元から丸い瞳を一層丸くして凝視した。


『僕は美しい』

『それは聞こえたし分かってるけど、どうしたんだ?』

『僕は、美しい、んだ』

ギュッ、と強く自分の指を握ると言い様もない感情が渦を巻いた。

なのに、円堂は少し楽しそうに目を細めた。

『知ってる、ミストレは綺麗だよな』

『…』

そう言って笑った円堂守は、多分俺より綺麗で、美しかった。

すっ、と渦が消えて、自然と口が開いた。


『…僕は、』

『うん?』

『君も、美しいと思う』

円堂が少し笑って、またシャーペンを持った。


『だから、見つめていたい』

『喜んで、だな』


また数式に向かい合うその瞳、もう少ししたら手伝ってやろう。

それから、それから今度は俺だけが見つめるのではなく、2人で見つめ合うのはどうだろう

ミストレーネ・カルスは机に頬杖をついて、美しい笑みで円堂を見つめた。





 
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テーマ「人外ファンタジー」
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