バダップが現代にいる
想う
:心に浮かべる
バダップは図書館から校庭を眺めていた。
館内はとても静かなのだが、窓側は校庭からの声が聞こえる。
わーわーと複数の声が脳内に響く。
バダップは静かに瞼を閉じて、迫り来る声の海から1人の声を広い上げようとした。
"――…、ぞ!"
"――、だな!"
ぼんやりとだが、聞きたい人物の声がしてきた、今度は目を開けて校庭を見つめる。
オレンジのバンダナを、視界はいち早く仕留めた。
『いいぞ!その調子だ!』
声の海から、はっきりと聞き取れた事にバダップは思わず口元に笑みを浮かべた。
『(円堂、守)』
本を閉じて、日溜まりに目を細める
端から見れば、日溜まりを楽しんでいるように見えるが、バダップには円堂しか見えていなかった
ボールをキャッチして笑った、と思えば突然リベロになってフィールドを駆け回る。
ずっと見ていても、飽きない、飽きる事はないだろう。
再びボールをキャッチした円堂は、大口を開けて笑った。
『(暖かいな)』
バダップが日溜まりの温度に気付いたのは昼休みが終わる3分前だった。
昼休みは45分、読書をしていたのは最初の10分くらいなので、35分は円堂を見ていた事になる。
そんな自分に少し苦笑し、すっかり暖かくなった本をなぞった。
栞を挟むのを忘れていたので、次読む時に面倒だ、とぼんやり思っていたはずだが、無意識のうちに頭が校庭を向いた
校庭でサッカーをしていた円堂も、休みが終わりに近い事を知ったのか、校舎へ駆けていた。
右手でガラスに触れる、円堂がこの手中に納まりそうに感じた。
ぼんやりと円堂を指と視線で追っていると、円堂が立ち止まった。
きょろきょろと辺りを見渡し、顔を上げた。
ばち、と視線がぶつかり、思わず息を呑んだ。
円堂は俺に気付き、両手を大きく振る、羞恥心というものはないらしい
円堂以外のやつがこちらをみているのも分かったが、俺はガラスに触れていた右手を小さく3回振った。
円堂は先程より大きく手を振って、今度こそ校舎へ走り出した。
きっともうすぐ此処まで来るだろう、そして笑顔でサッカーを誘うのだ。
『(今日は暑い、な)』
日溜まりよりも眩しく、近寄れば太陽より暖かい
バダップは右手で赤くなっているであろう顔を隠した。
笑顔が、やきついて離れないでいた。