:心の底から望み求める



喉から手が出る程に欲しいと思ったものが、今まであっただろうか

自分は淡白な人間だと思う、一番好きな食べ物と言われても直ぐに思い付かないし、逆も然り。

一番好きとか一番嫌いだとか、決めるのも面倒で、ただ享受するだけだった

しかし最近、一番好き、喉から手が出てもおかしくない程に欲しい存在がいる

円堂守、言わずもがなサッカー部のキャプテン


私と彼は正反対の場所にあると思う。

彼は私と違い、曖昧なラインが存在しない。

サッカーは好き、勉強は嫌い、ハンバーグは好き、ピーマンは嫌い

白黒がはっきりしている彼の世界はきっと視界が澄んでいるに違いない

私は曖昧なラインしか持たない為、いつだって世界は曇っている。

でも、そんな私の曖昧なラインしかない世界に漸く"好き"が出来た。

彼が視界に入れば、曇っていた視界は別世界のように晴れ渡る

彼の声が耳に入れば、闇すら溶かしてしまうのではないかと感じる。
『お、凉野!』

『!!え、円堂』

吃驚して思わずどもってしまった、…へたれとかではない、断じて!

『日誌書いてんのか?』

『ああ、これが終わってから部活に行く』

『そっか!……、』

何を思ったか、暫く考えるような動作をした円堂は、私の前の席に座り、日誌を眺める。

『凉野の字、綺麗だな』

『…そうか?』

私の字が綺麗なのではなく、円堂の字があまり…、なだけだと思う、とは言えなかった。

『……、行かなくていいのか』

『あと少しで終わるだろ?待つよ』

そこで会話が終わる、またとないチャンスなのに、私は何をしているんだと、頭を抱えたくなる。

『あのさ凉野』

『…なんだ』

『お前の髪キラキラしててふわふわだよな』

『…、そうか』

ああまた私は会話を終わらせてしまうような返事しか出来なかった。

『ああ、太陽が当たると雪みたいに綺麗で、俺、好きなんだよな』

好きだ、という言葉を躊躇いなく使う円堂は眩しい顔で笑った。

私の髪が好きだと言ったのに、私が愛されているように錯覚してしまう。

バクバクと心臓がうるさい、ペンが震えて上手く文字が書けない。

私はペンを握力で壊す勢いで握り、口を開いた。

『…私も、好きだ。円堂の髪は暖かい色をしていて、触れたくなる』

円堂が何も言わなかったので、顔を上げると、見たことない茹で蛸のような顔をした彼がいた

『…、円堂?』

『え、あ、はは、凉野は変わってるな!俺の髪普通なのに』

円堂の視線があちこちに泳ぐ

『私は円堂だから、好きなんだ』

言ってしまった、もしこれがゲームなら私は間違いなく電源を切っている。連打で。

やり直したい、だが言葉は戻らない

何も反応のない円堂を見れば、南雲の髪に負けない赤さになっていた為、思わずこちらも下を向いてしまった。

『…お、俺も、好きだ』

円堂は荷物を持ってそれだけ言うと駆け出して教室を飛び出た。

私は足音が消えたのを確認して、机に突っ伏した。

これは、つまり、

『……』

熱い頬を机で冷ましながら、まだうるさい心臓を宥める

いつもなら気にしないオレンジ色の太陽がやけに綺麗にみえた。

『(欲しい、な)』

円堂を思い出したらまた熱を上げる体に呆れながら、自分はこんなにも貪欲だったのかと関心した

…早く日誌を書いて、あの子に会いに行こう。

私をみた時、茹で蛸になる事を願って



 
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