ぐるぐると回っている。
基山ヒロトは喫茶店の一番奥に座って珈琲を眺めていた
カップの中では、投入したミルクが渦を巻きながら珈琲を漂っていた。
待ち合わせの時間にはまだ遠い、窓の外は色とりどりの傘が交差しながら街を染めている
『(早く着いちゃったなぁ)』
今日は雨(しかも土砂降り)だが、少し前に約束したデートの日、なのだ。
果たして彼は覚えているだろうか、携帯を開いてみるが着信もメールもない。
昨日、今日が約束の日だとメールをしなかったので、サッカーが好きな彼はもしかしたら忘れているかもしれない。
悲しい事であるが、サッカーと比べられては勝てる気がしない。(本当に悲しい事であるが)
ミルクが全て溶けきった珈琲を持ち上げれば、甲の骨が浮き出た。
本来より甘くなったそれに苦味はなく、彼が好みそうな味になっていて、早く彼に会いたいと思った。
『(…)』
ゆっくりカップを下ろして、水面に映る自分を見つめる
甘さは充分あるのに、足りないと感じた。
足りない、充分な筈なのに
右手を伸ばしてミルクのビンを掴むと、それを加減なしに珈琲カップに傾けた。
ミルクが増えるほど、カップの中身は薄く淡くグラデーションになっていく
ぼんやり、ミルクが溶けきれずに漂う様を眺める
ぐるぐるぐるぐる
基山ヒロトはカップぎりぎりまで水位が上がった所で、ミルクを傾けていた腕を止めた。
混ぜれば零れる、しかし混ぜなければ溶けない
彼は、余す事なく全てを溶かしてくれるだろうか
彼の中に、俺の思いは全て溶けているのだろうか
珈琲は最早、珈琲でなくなっていた
『ヒロト』
愛しい彼の声が聞こえたのに、俺は顔を上げる事が出来なかった。
(ミルクと世界)
2011.1/30
不完全燃焼orz