今日は部活がない休日だというのに、土砂降り
両親は買い物に行ったが、こんな雨では行く気になれず、自室でぼんやりと窓を打ち付ける雨を見つめていた。
サッカーがしたい、と溜め息をついたと同時に雨に混じって呼び鈴が鳴った。
『こんな雨の日に誰だ?』
重い腰を持ち上げて、足早に玄関へ駆ける。
『はー…、』
はい、と玄関の扉を開けると、見知った人物が立っていた
『佐久間!?どうしたんだよ!こんな雨の中…!!』
佐久間次郎、FFIで一緒に戦った仲間が土砂降りに関わらず、傘を持たずに立っているではないか
『佐久間?』
当の本人は雨など気にしていないように、焦点が合わない瞳で黙っていた
『おい、どうしたんだよ佐久間…?』
どこか悪いのではないかと心配したが、佐久間が漸く口を開いた。
『愛してくれ』
一瞬、何を言われたのか解らなかった
『え?』
『愛してくれ』
全身びしょ濡れになって真顔で"愛してくれ"と言うような人物ではなかったと思う。
『よく解らないけど、風邪ひくから中に入れ、タオル取って来るから』
佐久間の腕をひいて玄関に入れたが、やはり顔は変わらない。
脱衣室まで駆け足で行き、タオルを数枚鷲掴み、再びダッシュで玄関へ
佐久間は一歩も動かずに立っていた、動く気がないようなので、頭にタオルを被せて勢い良く拭く
『どうしたんだ』
『…円堂、』
タオルで顔は見えないが、佐久間が小さく呟いた
『うん?』
『愛してくれ、』
『どうすればいいんだ?』
『…、』
俯いた佐久間は何も喋らなくなった、なんだか消えてしまうのではないかと思えて、俺は思わず佐久間に抱き着いた
『円堂?』
佐久間は少し驚いたようで、声のトーンが変わった
『佐久間、』
小さく呼べば、雨でびしょ濡れになった佐久間の腕が俺の背中に回った。
佐久間の方が身長が高いから、長い髪から伝った滴がだんだん俺にも染みていく。
『…円堂、俺』
『うん』
『円堂が好きだ、好きなんだ、円堂』
回された腕から水分がじわじわと滲み、俺の皮膚が冷たさを感じとる。
佐久間の気持ちが俺を浸食していく気がして、静かに瞼を閉じた。
『ああ、俺も好きだぜ』
佐久間に聞こえるように言えば、回された腕の力が強まった。
『ありがとう』
雨はまだ止まない、とりあえず佐久間が気の済むまでこのままにして、その後にココアでも淹れよう。
(ブルーディアフタヌーン)
2011.1/18