吹雪は雪みたいに白い。そして、冷たい。たくさん走っても暑い中で練習しても吹雪の肌は冷たいままなのだ。


「吹雪ー?」

夕飯が出来たけどいつまで経っても来ない吹雪を探すこと15分、姿はどこにもなかった。

外はすごい雪で、一面雪景色だ。東京では滅多に見られない光景に窓辺に近寄れば、中庭に吹雪の背中を見つけた。

「吹雪」

窓を開けようと思ったが、合宿所が冷えるし風が荒んでいるから声は届かないだろうと判断し、駆け足で階段を駆け下りた。


びゅおおお、と人間を拒む風が吹いて、目を開けるのも一苦労だった。吹雪は俺に気付かないまま、まだしゃがんでいる。

もう少し厚着すれば良かったと後悔しながらしゃくしゃくと進めば、だんだん吹雪の姿がはっきりと見えて来た。

「ふぶ、」


声が出なくなった。吹雪は雪に紛れながら、雪を…、


それが普通でないものと感じた俺は、このまま引き返せば気付かれないだろうと方向を変えて早足で合宿所へ戻ろうとした。



「みちゃった?キャプテン」

合宿所の扉に手を掛けた時、俺の頬を冷たい指が掴んだ。

恐ろしく冷たい指は俺を氷にしてしまうように感じた。生命を感じられない指だ。

「ふぶき」

カタカタと震え出す身体を吹雪が後ろから包み込んだ。吹雪の額が項に当たる、やはり額も冷たい。吹雪は生きているのだろうか…

「驚かせちゃってごめんね、まさかもう夕飯の時間だとは思わなくて…、やっぱり夜に食べなきゃだめだね」

食べる、その単語にびくりと肩が揺れた。そう、吹雪は雪を食べていた。綺麗な新雪を、白い指で運んでいたのだ

「…吹雪は、人間なのか?」

「大体は、ね。ただ雪とか氷を食べないと調子が悪くてさ。」

体温がなくなるのを感じる。吹雪と密着する部分の熱が勢い良くなくなっていく、このままじゃ、

「吹雪、」
「大丈夫だよ、殺したりなんかしないから。ただ、2人の秘密にして欲しいなぁって思ってるんだ。…約束、してくれる?」

風が強くなる、吹雪の表情は分からないがきっと笑っている。臍の上で絡みつく吹雪の白い指をみて俺は意を決した。

「や、約束する」
「良かった!」

ぱっ、と俺から離れた吹雪はにこにこと笑いながら俺を上目遣いにみた。

「約束ね」

背伸びした吹雪にキスをされたと気付くのに時間は掛からなかった。背筋がぞわぞわと一気に凍ったからだ。

唇から舌、そして肺や心臓など身体の内側から凍り付くのではないかと思うほどに冷たすぎるキスだった。

吹雪はゆっくりと唇を離すと、うっすらと雪が積もった長い睫毛をパチパチさせて笑った。

「約束を破ったら氷漬けにして部屋に飾っちゃうからね、キャプテン」

俺の心臓を撫でた吹雪は、満足したような表情で俺の腕を掴んで食堂へ歩き始めた。

冷たすぎる指を振り払えるわけもなく、俺は吹雪に従うしかなかった。




(腐らないから名案ね)
2011.11/20


 
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