このままずっとここを動かなければどこに行くのだろうか。終点まで行ったらまた乗り換えて、ここより遠くへ向かえば、どこに辿り着くのだろう。目の前で無防備に眠るこいつは俺に着いて来てくれるだろうか。
ぼんやりとそんな事を思いながら窓の外を眺めると綺麗な海がみえた。海はキラキラと朝日を浴びて輝いている。線路はその先に続いているのか、途中で下車する雷門の生徒は大凡知らない。行けば近いのに未知の世界がこの先にある。
【次は――、】
電車がゆっくりと速度を落として、サラリーマンやOL、高校生が多く降りる駅へ止まった。立っている人達はいまはぎゅうぎゅう詰めだが、雷門中学校はこの駅より先にあるから電車の中は一気に人口密度が減る。この駅を過ぎると心なしか空気が澄む気がしている。
「円堂、そろそろだぞ」
揺り起こしてやるが円堂は起きる気配がない。円堂に限って徹夜で勉強はないだろうから、きっとサッカーについて考えていたのだろう。
「ほら、」
「…」
円堂を起こすのに四苦八苦していると無情にも車掌さんのアナウンスが流れた
【次は雷門…】
「…」
やってしまった。結局円堂を起こせないまま、乗り過ごしてしまった。景色はみたことない風景で新鮮…じゃなくて、学校に遅刻するから早く降りなきゃ…
そうは思っているものの、行きたかったこの先に向かっている事実に揺らぐ。どうしようかと自分と葛藤していると、円堂の眉間に皺が寄っているのに気付いた。
「…円堂?」
「ごめんっ!!」
尋ねれば、いままで寝ていたのは演技だったのかはっきりした声で円堂が謝った。恐る恐る、こちらを伺いながら円堂が口を開いた。
「遠くに行ってみたくて、寝たふりしたんだ。ごめん」
「謝るなよ、円堂。…俺も行ってみたかったんだ、この先にさ」
そう言えば、円堂は安心したように少し笑って椅子に深く腰掛けた。視線は海を捕らえている。
俺より多くの景色を吸い込みながら円堂は語りかけるように言った
「なにがあるんだろうな、この先」
「なんだろうな」
「海がみえる公園だったらいいな」
「そうだな」
「乗り越し分がいくらになるかな」
「帰りは歩きかもしれないな」
ガタンゴトンと電車が揺れて、真っ暗なトンネルに入った。景色がなくなった窓には円堂が写る、円堂は窓越しに俺をみて笑った。
「どこまで逃げようか」
「…できるだけ、遠くまで」
電車はガタンゴトンと揺れながら、未知の世界へと俺たちを運んでいた。
(小宇宙に迷走列車)
2011.11/20