『こらーっ!ヒロトをいじめるなーっ!』

『わ!円堂が来た』
『逃げろー!』
『またな宇宙人』

僕を囲んで虐めていた同じ学年の男の子たちは円堂くんの声を聞いて逃げて行った。

転ばされたままだった僕の前に息を切らせた円堂くんが心配そうに僕をみる。

『大丈夫か?ヒロト、怪我は?』

『平気、守が来てくれたから大丈夫だよ』

『またアイツらに何かされたらすぐに助けを呼べよ!』

守は僕の正義のヒーロー、どんな時でも僕を助けてくれる。僕の大好きな人

『あっ!やっぱり怪我してるじゃないか』

『あ、本当だ』

守は僕の膝から出ている血をみて慌てる。死にはしないのに、守は優しい。

『すぐ絆創膏とってくるから、ヒロトはここで待ってろよ!』

『ありがとう』

パタパタと駆け出した守の背中を眺める。これだけの事で守は僕のことを心配してくれる。僕だけをみてくれる。

流れる血に舌を這わせると幸せな味がした。




『ヒロト!』
『守』

あれから成長して中学生になったけど僕と守はずっと同じ学校だった。これからだってずっと同じ、そう思っていたのに。

――ヒロト、紹介するな!こいつは俺のXXのXXXX…

守は俺を見なくなった。苛められることがなくなったからかもしれない、守をたぶらかしたあいつのせいかもしれない。とにかく守は俺をみてくれない。心配してくれない。正義のヒーローでなくなってしまった。

『ヒロト!』
『…考えたんだ。どうしたら守が俺のことをまたみてくれるか…』

キチキチとカッターを出す音を聞いた守が強く扉を叩く。

『やめろよ!ヒロト!なんで…』
『守が俺の隣にいてくれれば良かったんだ。俺の正義のヒーローでさ』

閉じこもってばかりで日焼けをしない肌をなぞれば赤い筋ができた。

『痛くなんかないさ、だって怪我をすれば守は心配してくれるだろ?』
『ヒロト…!』

ばん!と鍵をかけたはずの扉が開いて守が入ってきた。驚いてカッターを離してしまい、床に落ちた

守はそれに気付かないように踏みつけると、椅子に座っていた僕を抱き締めた。小さい頃のままの温かいぬくもり

『大丈夫だから、俺はずっとヒロトの傍にいるから!だから、もう自分を傷付けるのはやめろ!』

『……守、』

手首に守の涙が落ちてきて、少しだけ滲みたがそれすら嬉しかった。

『本当に、僕の傍にずっといてくれる?』

『ああ、約束する。…傷の手当てをしなきゃな…絆創膏を持ってくるから、大人しくしとけよ』

『うん』

パタパタと駆けていく守は昔の守に戻ったみたいで、

『幸せだなあ』

昔、転ばされて膝に出来た傷は痕が残っていた。僕はその痕を数回なぞると舐めてみた。

血の味はもうしなかったけど、幸せな味はいまやっともどってきた気がした。




(間違った認識)
2011.11/13


 
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