『ふーん、君ってこういう趣味があったんだ』

『!ミ、ミストレ…!』

オレンジ色に染まりつつある教室とは対照的に、円堂の表情は青ざめていく。

ミストレの手に握られているのは写真、写真には水色の髪をした…

『君が幼馴染みの隠し撮り写真を持っているなんて、サッカー部の連中が知ったらどうなるだろうねえ…?』

写真を手に愉しそうに持ち、舐め回すようにねっとりとした視線をミストレは円堂に向ける。

円堂は背中にじっとりと汗を感じながら、それでも動けずに拳を握ることしかできない。

『…、か、返してくれ』

円堂はミストレの様子を窺いながら声を絞り出した。いつものようにグラウンドを駆ける声とはまるで違う、蚊の羽音のようなか細い声だ

ミストレは背筋をゾクゾクとしたものが走ったのを感じた。元々お気に入りだった人物の弱点を掴んだのだから、喜びは言い表せない。

『はは、それが人にものを頼む態度なの?』

しかし、それを隠したままミストレはあくまで冷たい視線、軽蔑するような表情を円堂に向ける。

そんなミストレの態度に円堂はうるうると涙が溢れそうになるのを堪えるように視線を上にずらし、唇をきつく結んだ。それがミストレの興奮を誘っていることを円堂は知らない。

『…か、かえしてください』

『…。そんなにこの写真が大切?そんなに幼馴染みのアイツが好きなわけ?』

『…』

何も言わない円堂の瞳は肯定を叫んでいて、自分で言った事だが、円堂が素直に命令を聞き、幼馴染みを想う事に苛ついたミストレは口角を歪める。

自分は円堂が好きなのに円堂は自分が好きではない。望めば全てが手に入ったミストレにとってそれはとても面白くないことだった。

ポーカーフェイスを気取るつもりが、ミストレは写真を宙に放り投げて円堂へ歩み寄った。

『面白くないなぁ。なんでアイツなわけ?弱さから力を求めた負け犬のくせに『風丸を悪く言うな!』


――シン、と2人しかいない教室に沈黙が流れた。円堂が「しまった!」という表情をすると同時にミストレは円堂の襟元を両手で掴み、冷たい壁へ押し付けた。

額が当たる、呼吸を感じる距離でみつめあい、円堂は襟元を持ち上げられ苦しそうにするが、ミストレはそんな円堂を見下ろして切羽詰まった顔で笑った。

『…こんな状態になってもアイツは来ない。このままキスしたってアイツは助けに来ないだろうね。」

舌なめずりしたミストレが円堂の額から鼻筋へと唇を滑らせれば、円堂はミストレの肩を押した。

『やめろ、やめろミストレ…やめてくれ…んっ!』

そんな抵抗は無意味、とミストレは何も言わないまま唇を押し付ける。

壁に押し付けた時に切ったのか、円堂の口腔は血の味がしたのをミストレは置いてけぼりの理性で感じた。



『(…呆気なく奪えた)』

唇を離した後、ボロボロと泣きながら床に崩れた円堂を見下ろし、ミストレは静かに写真を見た。

写真のあいつは修復できないミストレの立ち位置を笑っているようにみえ、ミストレは虚しさと達成感が入り混じった感情を胸に抱いた。

ぽっかりと胸に穴が空いたようなその感情に、円堂の涙を詰め込めば生きていける気がしたが、声を押し殺して泣く円堂の姿をみるとミストレはただ立ち尽くすことしか出来ないのだ。



――キリトリ――
|ω・`)うにさんお誕生日&5000hitおめでとうございますっ!これからもうにさんの素敵な円堂受けを楽しみにしています+*



 
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -