※守が♀
ゴッドボインをもつサッカー少女




南雲晴矢という少年は幼い頃から庭を駆け回り、服を汚しては瞳子姉さんに怒られる。そんな良く言えば活発、悪く言えば無鉄砲で頭が悪く要領も悪ければ学習もしない男であった。女の子と連むより男同士で遊ぶ方が気楽だと豪語しているが、それは単に女の子と話すのが気恥ずかしいシャイボーイだからであることをお日さま園で暮らした面々は知っている。

そんな古風なシャイボーイ南雲晴矢が高校に上がり、サッカー部に入ったころからどうも様子がおかしい。やけにぼんやりするようになったし、遊びでしていたサッカーに本当に食い入るようになっていた。まさに寝る間も惜しんで、だ。

『と、いう訳なんだけどね。単刀直入に聞こうか南雲晴矢少年』

『貴様、恋をしているだろう』



俺につめよった基山と涼野は幼なじみというか施設で育った連中だ。なんだかんだで高校まで同じになってしまったが、付き合いは深いのではないかと思っている。ガキの頃から連むやつらが俺をどう思っていたのかは知らないが、愛だの恋だの言う男ではなかった気がする。

『だいたい、なんで恋になるんだよ』

『飽性で趣味は三日坊主の晴矢が3ヶ月も同じ部活してるのがおかしい、中学ではとっかえひっかえだったのにさ』

『貴様が練習までして熱中するには理由があるに決まっている』

『ねえよ、ったく、暇人帰宅部はさっさと家に帰れ』

シッシッ、と払う仕草をするが、基山と涼野は帰る気が毛頭ないらしく不満げな顔をするだけだった。今は放課後で部活がもう少しで始まるから馬鹿は放っておこうと準備すると、廊下を走ってくる音がした。

『サッカー部のマネージャーが好きとかさー』

『基山、こいつは今どき絶滅危惧種のシャイボーイだ』

足音はドタバタと近付き、教室の引き戸を勢い良く開くと足音の主が現れた

『南雲!今日は部室の鍵の担当だろっ!』


いきなり入って来たのはツインテールのような髪を揺らし、高校生にしては豊かな胸をもつ女の子だった。彼女の名前は知っている、一年生にしてサッカー部の正ゴールキーパー円堂守だ。オレンジのバンダナが活発そうな容姿を引き立てている。

『え、あっ!わ、悪ィ!』


円堂守を前にした南雲晴矢はどもり、悪ぶっている時とえらく違っていた。情けない。我が旧友として情けない。ここまでいくとシャイボーイなどではなくヘタレチキンだ。骨無し!貴様には失望した。


『あった!おらよ、サッカー馬鹿女!』

『サッカー馬鹿で結構ですよーだ!』

南雲から鍵を受け取った円堂守ちゃんはべーっと仕草をして、俺たちに頭を下げて出て行った。なんだか可愛い…と思っていたら再び扉が開いた。頭だけ出した彼女は南雲に『南雲、もうすぐ始まるから早く来いよ!』とだけ言うと今度こそ足早に戻ってしまった。


『…』

『…成る程ね、彼女か』

『はあ?馬鹿かお前!そんなのじゃねえよ!あんなサッカー馬鹿女っ!』

やはり馬鹿だった、と我ながら頭を抱えたくなった。ここまであからさまな馬鹿だとは思わなかった。誤魔化し方が小学生だ。いや、小学生以下だ。

『と、とにかく俺は部活に行く!お前ら帰れ!』


ガタガタと急いで準備する晴也をみて、涼野と目を合わせた。小さい頃から南雲の性格はよく知っている。でもそんなのは女の子に通用しないよ。今更シャイボーイが流行るわけがない。涼野と頷くと俺たちは南雲より素早く準備をして席を立った。

『…やけに素直だな』

『フン、感謝するがいい南雲晴矢』

『俺たちが恋のキューピットになってあげるよ!』

『は…、ちょ、まてお前ら待てえええええええええええええええ!!』

ドタバタと廊下を走れば南雲が鬼のような形相で追いかけてきた。

『貴様の為にサッカー部に入部してやる、感謝するんだな!』

『まあ俺はぶっちゃけ円堂守ちゃんに興味を持ったけどね!』

『認めるかぼけっ!』


結局3人で校庭に駆け込み、サッカーを何より愛するサッカー少女に目を輝かせながら言われた言葉で俺たちはサッカー、そして円堂守という少女の魅力に引き込まれていくのだった。





(魔法使いの蟻地獄)
2011.8/31
女の子じゃなくても良かった?



 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -