霧→円→風



人違いをしているんですよ、監督は。届かない昔の影に手を伸ばしたまま、時に逆らって俺に触れて、幻影に触れた気になっているだけです。そんなのは哀れで愚かな行為ですよ監督。俺はあなたが望む男ではないし、あなたの理想の男になろうとも思わない。俺の髪を撫でて男を手にしたつもりになっているなら監督は馬鹿だ。見て下さいよ、俺をちゃんと見て下さいよ。あなたの目の前にいるのは俺だ。俺に誰かの影を重ねないで下さいよ、都合のいいように解釈して逃げないで下さい。俺は難しい事なんて言っていないでしょう?

『俺をみて下さいよ、監督』

組み敷いた監督の身体は思っていたより小さかった。それでも身長が足りないから抵抗されれば俺の腕では捕らえられない。のに、そうしないということは監督はまだ俺をみていないのでしょう?監督は狡いです。教え子の枠から出す気がないくせに、手を伸ばして期待させる。生殺しの気分を味わった事がないでしょう?監督が全てを握っているのに、俺には選択肢がない。触れられるのに、触れられない。もう嫌なんですよ。監督。

『俺だけをみて』


情けなく震えた小さな声に監督は静かに頷き、俺の頬を撫でるだけ。俺が引き下がると思っているならそれは誤算です。試しているだけなら良かったのに。監督の次の言葉を待たずに俺は距離を縮めた。

暗い部室で重なった影は歪んで滲む、きっといつか俺も監督のようにいつかあなたの影を追うのでしょう。手に入らない幻影を求めてはまた遠ざかっていく。





(手折るならひと思いに)
2011.8/30

入水願いをイメージして挫折、亜風炉でリベンジしたい


 
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テーマ「人外ファンタジー」
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