人はいつか死んでいく生き物であることは、時が経つに連れて知ったことだ。
死ぬ事を頭の隅に置いて生きていくなんて、人間は強く、また、意味のない事をしたがる生物なのだろう、と遺影を見ながら考えたのは僕だけじゃない筈だ。
人は平等だと誰かは言ったが、それは正しいと思う。死ぬ事だけは絶対だ。
偉くとも醜くても秀でていても、生きている者に死は誰にでも平等にやってくる。
サッカーを愛し、どんな人でも明るく照らす彼さえも、死んでしまうのだ。あと80年、もっと短いかもしれない。もしかしたら明日、不幸な事故で死んでしまうかもしれないのだ。
いつか死ぬのに、なぜ生きる?
『明日は海にでも、行かないかい?』
そんな事を考えながら提案すれば、ゲームの画面に夢中になっていた円堂くんはこちらを向いて、茶色の大きな瞳を瞬かせた。
その瞳が永遠に輝かなくなる、その小さな身体は働かなくなる。
円堂守という人物が死んだらその存在はこの世界から完全になくなる、やがては記憶からもなくなっていく。
僕はきっと君がいない世界に耐えられない。
それなら君が死ぬ前に、この手で、この指で、この僕が、君から生を奪ってしまいたいんだ。
円堂くんは静かに俺を見つめたあと、小さく頷いた。
『いいよ』
透き通った声だった。僕ははっとして円堂くんをみる。
『海、行こうぜ』
見透かしたような笑みにみえた、まるで死など恐れていないような、享受しているような。
『円堂くん』
『楽しみだな、海は久しぶりだから』
ゲームを中断した円堂くんは静かにコントローラーを置いて僕を抱き締めた
『照美となら、楽しい1日になるな、きっと!』
1日、その言葉に僕はついに彼の胸で泣いた。
1日1日時間が減っていく、彼も僕もいつか思い出になるんだ。
それが嫌なんだ、いつ終わるか分からないなら僕が終わらせたって構わないだろう?
そうは思っていても、力一杯絞めてしまおうとした首筋がすぐそこにあるのに、僕の指は情けなくも彼に縋るように抱き付くしか出来なかった。
(死へと歩む僕ら人間)
2011.07/23