『なあヒロト、幸せの形ってどんな形だと思う?』

円堂くんはこちらを見上げ、尋ねた。俺は突然すぎる質問に、大口を開けた。

『…幸せの形?』

『そ、幸せの形!』

たまに、円堂くんは唐突もない事を考える。それはどんなに高尚で聡明な学者が論を説くよりも、難しく、それでいて優しいものだから俺は話を聞くのがとても好きなのだ。

『…ううん、幸せってはっきり分からないから幸せなんじゃない?気付いた瞬間にああ、幸せだなってさ。形はないと思うな』

『成る程、』

円堂くんは数回頷いて俺の意見を咀嚼しているようだ。普通の会話も充分楽しいが、意見交換はより距離を縮められる気がする。

『円堂くんは、幸せの形をどう考えたの?』

『俺?』

考えるのを止めた円堂くんはベッドの縁に座り、近くに立っていた俺と向き合うような体制になった。

『俺は、ヒトの形だと思う』

ヒトの形、そう言った円堂くんは自分の指同士を絡めた。俺もつられてそうしてみた。

『プレゼントを貰う時は手で受け取った。おめでとうの言葉には口で返した。心臓は犬の尻尾みたいに振ってたんだ。どの部分も幸せだって、動いてたんだ』

円堂くんの自室のあちこちにプレゼントが置いてあった。どれも今日の為に数日、或いは数ヶ月前から思考した末のプレゼントだろう。

なぜなら俺の両手にもプレゼントが握られていて、やはり俺も数ヶ月から考えて、今日に至るからである。

『…確かに、そうかもしれないね。』

俺はプレゼントを円堂くんの隣に置き、円堂くんと握手をした。

『円堂くんの体温を感じてる腕も、声を聞ける耳も、同じ地面に立てる足も、円堂くんを見れる目も、…本当だね。幸せはヒトの身体なんだ』

これは今世紀最大の発見に違いない。やっぱり円堂くんはすごいや

円堂くんは俺の指の感覚を確かめるように握り、そのまま頬に当てた。体温とは違う温かさに、円堂くんが言ったように心臓が尻尾になったように跳ねた。

『円堂くん、生まれて来てくれてありがとう。』

一度だけみた事のある円堂くんの両親、コトアールの大介さん、その先代々の人を思い浮かべながら、その言葉を口にすると、何故だか涙が出そうになった。

『ありがとう、ありがとなヒロト』

円堂くんはその言葉を大切に聞き取って、丁寧にお礼を言ってくれた。

感謝しても足りない、偶然でも奇跡だ、今同じ空気を吸える肺が、身体を交えさせる事ができる皮膚が、嬉しそうに笑う顔を記憶できる脳が、全身が君という幸せを感じている。

『生まれて来てくれて、本当にありがとう、円堂守くん』

『ありがとう、ヒロト』

ヒトを祝って泣くのは初めての事で少し戸惑ったが、円堂くんは俺の首に腕を回すと優しい心臓の音を聞かせてくれた。俺は瞼を下ろし、その背中に腕を回した。

聞こえてくるのは心臓の音だけで、俺は祈るように話し掛けた。

『ありがとう、これからも円堂くんを宜しく。そして、長く、長く動いてくれよ。』

円堂くんは何も言わないまま腕の力を強めた。俺は肩が濡れていくのを感じていた。





(僕らの幸福論)
2011.06/14
こっそりおめでとうございます。これからも素敵な円堂受けを宜しくお願いします。壁|ω・)


 
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