病んでれ



いい夢をみた日の朝って、1日が楽しみになるよね。僕は昨日いい夢をみたんだ。だから今日はきっといい日になるよ

『どんな内容か、知りたい?キャプテン』

キャプテンはドリンク唇に当てたまま少し考えたようだが、やがて首を横に振った。

『じゃあヒントをあげるね!夢の内容って話すといけないらしいけど、僕の夢は関係ないよ。だって寝てみる夢じゃないもの…どう?』

眉間に皺を寄せたキャプテンは難しい顔をして考えている。あんまり皺を寄せているものだから、僕まで同じ顔をしてしまいそうになっちゃう。

僕はキャプテンの眉間に人差し指を当てた。皺を伸ばすようにしてやればキャプテンは少し笑った

『2つめのヒントはね、夢は夢だけど、正夢になったって事かなあ』

顔色を窺えば、少し強張っていた。眉間の皺はすっかり伸びちゃっていた。

『正解だよ、キャプテン。キャプテンの声が出なくなるように願ったら、夢が叶ったんだ』

口をパクパクさせるキャプテンは僕を見上げる。可愛い、お魚みたい!

ベンチから逃げようと浮かした腰を見逃さず、すかさず肩を押した。

『キャプテン、知ってる?言葉ってのは動物がするグルーミングと同じ役割をするんだって。だから男女や親しい人は触れて、愛を囁き合うんだよ。』

茶色の大きな瞳が僕を映した。涙が溜まっているからか、僕は醜く歪んでいた。間違ってはないけどね。

『だから僕はキャプテンの声で生まれる言葉を、僕以外の人間に聞かせるなんで、絶対に、嫌だったんだ。』

声は出ないのに言葉を生み出そうとキャプテンは口を動かしていた。それを読み取ってから、今度はキャプテンの唇に人差し指を置いた。

『大丈夫だよ、僕の言葉はキャプテンにしか真実を話さない。だから今もこうして事実を話したでしょ?僕は本当にキャプテンを愛してるんだ』

次にキャプテンは小さな指で自らの喉に触れた。その指で僕のシュートを止めているとは思えないね、いつみても。

『確かに、キャプテンの声が聞こえなくなったのは残念なんだけどね。言ったでしょ?キャプテンの声が他の奴らに与えられる事は嫌なんだ。』

僕はキャプテンが触れている指ごと、キャプテンの喉を掴んだ。ああ、折れちゃいそう。

『例えそれが僕の名前だとしても、僕に囁く愛の言葉だとしても。女でも男でも、許さない。大勢を殺すより、1人を犠牲にした方が簡単でしょう?』

ぐっ、と軽く力を込めるだけでキャプテンの血が巡るのを感じられた。脆いなあ、まるで魚だ。

『犠牲って言い方は悪いね。ごめんねキャプテン。でもね、愛してるよ』

手を離して、頬を伝った涙にキスをした。しょっぱくて、まるで、本当に陸に上がった魚のようだと、唇を舐めながら考えた。


(言葉が生まれた意味)
2011.06/13



 
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