病んでれ
「願いが叶うドリンク」と、怪しげな書体で書かれている小瓶を手中で転がしていた。
裏面を見れば、願いは1つだけ、飲んでからの第一声で言わなければならないと書かれている。
自室のベッドに寝転びながら、何度も小瓶を眺めては思考を巡らせていた
願いが1つだけ叶う、どんな願いだろうが願いは1つ叶うのだ。
この世の富を得るのもいいだろう、地位や名声も手に入れる事が出来れば将来は安泰だ。
だが、俺はそんなものに興味はなかった。
『円堂、』
円堂が欲しい、円堂だけが欲しい。
ただ円堂を自分のものにするのは不安だ、ずっと2人でいられる保証が欲しい
どうすれば円堂は俺の側にいてくれるだろうか、どうすれば円堂を繋ぎ止めていられる?
鬼道や不動ほど頭がきれるわけではないが、俺だってやれば出来る筈だ。
静かに瞼を閉じて円堂を思い描いていたが、やがて小瓶を額に押し当てた。
円堂の手足を削ぎ落としてしまおう
瞼を持ち上げると、夕焼けが部屋に入って来ようとしていた、橙色なんかではない、真っ赤な夕暮れだった。
俺はベッドから降り、小瓶を持って円堂の家へと向かった。
『どうしたんだ?風丸』
円堂は風呂上がりらしく、肩にタオルを掛けていた。タオルの端を握る腕はなくなる。大好きなサッカーを奪うのは少しだけ罪悪感を感じるが、幸せになる為の僅かな犠牲だ。
『なあ円堂、手足がなくなったらどうする?』
『え?』
円堂が不思議なものを見る瞳でこちらを見ている。分かってるよ、不安なんだろう?
『でも大丈夫だよ円堂、俺がちゃんと責任を持つから』
『は?何の話だよ?』
俺は小瓶の蓋を開け、それを胃へ流し込んだ。味はしなかった。だが、液体が通った後は不思議と熱を持っていた。
円堂は俺を見ていた、腰が引けているのは一目瞭然だった
『…風丸?』
俺は円堂の肩を掴んで、言葉を、願いを紡いだ。
『円堂は生まれた時から手足が動かない、俺は円堂の唯一の心の支えで、円堂は俺以外は興味がない。俺たちは、愛し合っているんだ』
『何言ってるんだよ…、風丸?』
円堂の不安と心配が混ざった視線がひしひしと感じられた
いつまで経っても円堂の手足はなくならない。
俺は円堂の肩を軽く叩いて笑った
『なんてな!夢をみたんだよ、驚いたか?円堂』
『な、なんだよ!驚かせるなよ!』
円堂は数回俺の肩を叩いたが安堵したように溜め息をついた。
『悪い悪い!じゃ、それだけだから!また明日な!』
『ああ!明日な!』
弾き出したように俺は走った、小瓶は川に投げ捨てた。効かない、効きやしない。所詮は子供騙しだったのだ。
その日はシャワーを浴びて逃げるように眠りについた。
『一郎太、一郎太ー!』
下から母さんが俺を呼ぶ声が聞こえた、いつもなら自分で起きられるのに
伸びをしてベッドから降りると、目覚まし時計が鳴る30分前を指していた
『母さん、時間間違ってるよ』
とりあえず階段を下りたが、母さんは不思議そうな顔をして朝食を机に並べた
『何言ってんの、守くんを学校に連れて行くのがあんたの役目でしょう』
『円堂を?…!』
俺は理解して、朝食を食べずに家を飛び出した。後ろから母親が止める声がしたが、そんなのどうでも良かった。
『円堂!』
円堂の家へ入り、姿を探した。胸がただひたすらに高鳴っていた。『どうしたんだ?風丸、いつもより早いな』
円堂は温子さんの車イスに連れられて現れた。いつもサッカーをしていた手足はなく、長いシャツは風にそよいでいた
『円堂…!』
駆け寄れば、"手足があった円堂"とは違い、活発そうな印象はなかったが、やはり円堂は円堂だった。
『ごめんな風丸、いつも迷惑かけて』
『何言ってるんだよ円堂、俺たちの仲だろう』
俺は円堂の太ももや額をなぞり、本当にないことを確認して天井を見上げた。
ああ神様、ありがとうございます。
(四肢は捧げたよ)
2011.06/06
――――――
円堂さんの感覚を奪うヤンデレ話が書きたかったのです。すみません。次は基山で考えていて本当にすみません。