「何が言いたいか分かる?」
ずいずいと整った顔が近付いてきて、俺は思わず後ろに下がった。
「えっと…?あの、ミストレ?」
思い当たる事が何も見当たらす、視線を泳がせる。なにか、ミストレのカンに触るようなことをしただろうか?
「まるで分かっていない顔だね」
ニヤニヤと、それでも僅かな苛立ちを露わにしながら距離は縮められる。
「ミ、ミストレさん?」
とりあえず腰を低くしてみたが、それでもミストレはじりじりと近寄ってくる
「なあ円堂?俺ってさ、可愛いし可憐だろう?」
ニコニコしながらミストレが近付いてくる、美人に詰め寄られたら嬉しいだろうが、今のミストレをみたら虎でも逃げ出すだろう。
「あ、ああ!ミストレは綺麗だよな!」
これは本心だ、決して嘘ではないのだが、ミストレはその答えを聞いた途端に眉をしかめた。
これはただごとではない、円堂の本能がミストレから離れることを選択し、身体が反応を始める。ほんの一瞬だった。
―――ダン、
「っ、」
円堂の身体はミストレによって壁に縫い付けられた。背中がぴったり壁に着いているため、脱出も不可能。
「逃げようとしたってことは、悪いって自覚が出来たから?それとも、ただ俺から逃げたいと思っただけ?」
ミストレはニコニコしたまま、俺の耳の横に両手を勢い良く着いた。音が耳を通して脳内にまで響いていくようだった。
「ねぇ?」
睫が触れそうな程に近い距離でミストレが囁いた。怖いのに心臓がドキドキ言っているのが分かった。
「ミス、トレ…!」
必死に、縋る様にミストレの肩に両腕を回すと、ミストレが小さくため息を吐いたのが僅かに聞き取れた。
「…俺を妬かせないでよ、円堂」
「妬かせ…?」
ミストレは呆れたような顔をしてたが、何か思いついたように口角を上げた。
「そうだな、円堂に分かるように言うと、こういう事」
ミストレの愉しそうな顔が近付いたと思ったら、そのまま唇が重なった。
いつもならすぐに離れるキス、なのに、今日は違った。
「ん、ふ!?」
酸素も唾液も全て奪われるキスに、脳みそが揺れた。
「…っ!」
これ以上は無理だと、ミストレの背中を必死に叩く。ミストレはそれでもしばらく唇を離さなかったが、俺の腕の力が完全に抜けたのをみて、やっと唇を離した。
「っ、はあっ、はあ、」
腰に力が入らず、床に背中を付けながらへたり込んでしまう身体。肩で息を整えてミストレを見上げると、口元についた唾液を右手で拭いながらニヤリと笑った。
呼吸を整えることを忘れてミストレに見入っていると、ミストレはしゃがんで、俺の額を撫でた。
そして、優しそうな笑みで一言
「俺を怒らせたら怖いってことさ」
そう言ってミストレはまた唇を重ねた
2011.05/31
(甘美なお仕置き)