※照♀→円←風
※女性卑下表現




『女なんて、嫌いだ』

風丸の言葉に、亜風炉は静かに顔を上げた。2人は日直の為に教室にいたが、オレンジ色になりつつあるグラウンドからはサッカー部の声が響いていた。

亜風炉は握っていたペンを置き、向かい合わせに座っている風丸を見る為に顔を上げた。言葉からでも充分伝わったが、風丸はやはり、恨めしそうに、いや、憎悪の表情を浮かべて亜風炉照美を睨んでいた。

『そう』

亜風炉は金糸の髪を靡かせて何でもないように相槌を打った。その瞳には風丸とは違い、憎悪も同情も含まれていなかった。まるで穏やかな海だ。

風丸はそんな亜風炉にさらに腹をたてた。

『女なんて、子宮があるだけじゃないか』

今にも噛み付かんとする、それこそ"女顔負け"の容姿をした風丸は亜風炉を射殺さんとばかりに睨みつける

『…』

亜風炉は反論もせず風丸をただ見ていた。その瞳は海のように穏やかで、全てを飲み込む海底のように冷たかった

『子宮さえ、あれば、俺だって…』

風丸は亜風炉の下腹部を睨む。亜風炉はわざとらしくへそを優しく撫で、ようやく表情を変えた。

『僕はいつかこの子宮に円堂くんの子を宿すよ』

その言葉に風丸は亜風炉を椅子から落とし、その上に跨がった。無意識にした条件反射のようなものだったが、風丸も亜風炉も驚かなかった。

打ち付けられたにも関わらず、亜風炉は教室に背中をつけたまま風丸を静かに見上げた。風丸は奥歯を噛み締めながら亜風炉を上から見下ろす。

端からみたら扇情的な光景だろうが、2人の間にはそんなものは存在しなかった。お互いが嫌悪の対象でしかないのだ

『女なんて、子宮があって脂肪が多いだけじゃないか、なのに、なんで、お前らが円堂の隣に、平然と立てるんだよ』

『君は自分で答えを出しているじゃないか』

嘲笑うように亜風炉は、自らとは違い堅く筋肉質である風丸の胸板を白く細長い華奢な指で撫でた。亜風炉にはある膨らみが風丸にはないのだ。

風丸は悔しそうに唇を噛み締める。風丸には亜風炉を組み敷ける力はあるが子を成せる器官はない。

丸いルビーを縁取る睫毛は微笑を浮かべる。聖母のそれとよく似ていた



『女だからだ』

亜風炉が躊躇いもなく風丸に突き付けた言葉は風丸の衝動を動かした。風丸は首を絞めた。これも条件反射に近かったが、やはりどちらも驚かなかった。

『鋏で子宮を切り取って乳房を切り落としてやる、その長い髪も、脂肪のついた足も、全部!』

風丸の瞳は哀れな獣だった、理性を抑える円堂がいない今、彼はただのケダモノでしなかった。

容赦なく締まる首に亜風炉は眉をしかめたが、穏やかな海は荒れなかった。

その瞳が気に入らず、風丸は首を絞める右手をそのままに左手て卓上の鋏を探った。

『俺からも逃げられない女のお前に、円堂が守れるはずかない』

風丸の左手が鋏を掴み、それを亜風炉の瞳の上に構えた。

風丸は笑っていた、亜風炉はやはり表情を変えなかった





『風丸ー、亜風炉ー、まだ日誌書いてんのかー?』

円堂は何時まで経っても部活に来ない2人を心配して教室に戻った。

教室の中はもうオレンジ色でいっぱいで、柑橘系の匂いすらしそうだった。

『ああ円堂、今行こうとしてたんだ』

風丸は鞄を閉めて、ショルダーをかけた。

『待たせてすまなかったね、さあサッカーしようか』

亜風炉は鞄を肩にかけて円堂に微笑んだ。

『ああ!皆待ってる!早く行こうぜ!』

円堂は小走りで廊下を走った。

『そんなにはしゃいだら、転んでしまうよ』

亜風炉は円堂を追い掛け、グラウンドへ向かった。よく目を凝らせばみえるだろう、その細い首に手形があるのが。

亜風炉は静かに風丸を振り返り、薄く、勝ち誇ったように笑った。

風丸はそれに答えるように笑い返し、左手に持ったままの鋏を握り絞めた。

そんな事を知りもしない円堂は、ただオレンジ色の廊下を跳ねるように走っていた。




(彼を愛する資格)
2011.05/29

やりたいようにやったらこんな話になりました。本当すみません。男の娘(今回は♀だけど)が険悪で陰湿な関係なのが大好きなんです、すみません。

そのうち風丸が"手に入らないなら円堂を"なんて思考になった話を書きたいです。

ジャンピング土下座


 
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