彼はサカナ、綺麗なヒレを靡かせて水中を自由に泳ぐ

餌付けは愚か、素手で捕まえる事など、出来ない

出来ないから欲しいのか、欲しいから出来ない事が理解できるのか

とにかく、今日もサカナは捕まえられそうにない。

『綱海』


背後からの声で振り向けば、円堂が立っていた。

『今日も海に行くのか?』

『ああ!海が俺を呼んでるからな!』

サーフボードを見せれば、円堂は笑った。

『なあ、俺も行っていいか?』

『いいぜ!1人より2人のが楽しいからな!』

海までの舗道を並んで歩く、潮の匂いが風に乗って鼻を擽った。

円堂は少し出っ張ったコンクリートの上をバランスを取りながら進む

ヒラヒラ、ユラユラ

そのまま消えてしまいそうで、思わず左手を伸ばした

『円堂』

『うぉっ!?』

がっしりと肩を掴まれた円堂は、驚いた顔をして振り向いた。

『どうしたんだよ、綱海』

いつもなら自分より低いのに、今は同じくらいの目線

『…あー、コンクリートの上、歩くと転けるぞ!』

咄嗟に出た言い訳は、小学生に言うような言葉だった。

円堂は一瞬首を捻ったが、笑った。

『なんだよ急に!』

『それは、あれだ!転けたら痛いだろ』

『変な綱海、いつもやってるだろ』

しかし、一応注意は聞くことにしたのか、円堂はコンクリートを降りて隣に並んだ。

消えてしまいそうで、捕まえたいのに

捕まえたら、消えてしまいそうで

サーフボードを持つ力を強め、心を落ち着かせた。


『魚、』

『ん?』

円堂の瞳がこちらを向いた。

『魚ってさ、捕まえられそうで素手では中々出来ねぇんだ』

『動きが素早いもんな』

『どれだけ近くにいても、少し手を伸ばせば遠くに逃げちまうんだ』

『ふーん…』

茶色の瞳がこちらを見ている、もし、今手を伸ばせば、捕まえられるだろうか

円堂は少し自分の手を眺めた後、俺の手を握った。

『は』

『綱海は魚みたいだけど、捕まえられたな!』

ニカ!と笑った円堂は指の力を強めた。

『サーフィンしてる綱海はさ、そのまま魚になっちまうんじゃないかって思うくらい魚みたいなんだよな』

『…』

円堂は俺と繋がっている指をみて、感慨深げに呟いた。

『…俺は、円堂が魚みたいだと思うけどな!』

『俺が?』

円堂は理解出来ない、と言った風に首を傾げた。

『魚みたいに自由なやつ』

『じゃあ俺たちお揃いだな』

円堂は弛く笑った、波の音が僅かに聞こえてきた。


なあ円堂、お前が言うように俺もサカナだったなら、触れる事が許されただろうか。


『サカナは、人間が触れると火傷しちまうんだってよ』

『へぇ、知らなかったな』

円堂は尚更指の力を強めた。


『綱海が火傷しても、俺、離せそうにないな』

円堂は困ったように小さく笑った、俺ははっとして同じように力を込めた。

『お揃いだな』


海に向かうサカナが2匹、手を繋ぎながら還ろうとしていた。




(火傷したサカナ)
2011.3/6


 
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テーマ「人外ファンタジー」
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