彼女は夢を見ていた。
世界を創り上げる夢。
まるで箱庭を飾るかのように、
淡々と、それでいて楽しそうに。


***


「最善を尽くしましたが、意識が回復するかどうかはなんとも」

医師はうっすらと表面上の悔しさを顔に浮かべた。私にはそんな風に見えた。
救えない命に尽力するくらいなら、救える命を選ぶ。
もし私が医師ならば、私だってそうするだろう。だが私は医師ではない。一人の娘を救ってくれと懇願する父親でしか無いのだ。
立ち尽くす私の胸中を知ってか知らずか――恐らく知るよしもないであろう医師は軽く会釈をして去っていった。

昏睡状態。

それが彼女の今の状態だった。
私の頭の中は、どうすれば彼女が目を醒ますか、それだけだった。彼女が望む物を与えて目を醒ますならそうしよう。

それから私は彼女が望む物を知るために彼女が見る夢を覗くことにした。彼女の夢の中に入り込んで。


***


真っ白な空間が其所にあった。
見上げれば真っ白な空。
見下ろせば真っ白な地面。
建物の類いは一切無い。
人も私を覗けば誰もいない。
これが今、彼女が見ている夢なのか。

「貴方はだぁれ?」

不意に後ろから声をかけられる。
振り返れば少年が其所にいた。

「ねぇ、貴方はだぁれ?」

「私は×××」

「初めまして、×××。ボクはノイです」

驚きを飲み込んで名乗ると、律儀に少年も返してくれた。氷のような透き通った瞳が私の目を射る。

「まだ何も創ってないのに、×××はどうしてここにいるのかな?」

ノイという少年は無邪気な笑顔を浮かべる。
「まだ何も創ってない」とは、まるで創造神であるような言い草だ。

「娘の夢に入り込んでしまったんだ」

夢なのだから本当のことを言っても構わないだろう。私の頭はそう判断していた。

「へぇ、事故にせよ故意にせよ大変だね。でも、もうこの世界はボクの物だから」

悪魔のような言葉だった。
彼女の夢がこの世界。そしてこの世界の現支配者とも言える神がノイである。
そう言ったのだ、彼は。

「いや、元々ボクの物だよ。ねぇ?」



「パパ?」


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20120824

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