【1】

2073年7月15日



「やっと……やっと見つけたぞ……!」

痛みの森の奥地にある祠の底で探検家の男は暗がりの中ランタンを掲げ、感嘆と欲を含んだ声を上げた。男が目を輝かせて見つめる先には、ランタンの灯りを照り返す氷壁のように聳える大水晶に封じられた終焉を齎す"星"があった。あった、と言うには語弊があるように思う。正確には大水晶の中で眠っていた。

「噂は本当だったのか……それにしても、これは素晴らしい! 数万年前の遺産だというのにこれほど綺麗に残っているとは……」

男は大水晶を軽く撫でる。ひやりとした温度が男の手を這う。男は地面を見ると片膝を立ててしゃがみ、落ちていた大水晶の欠片と思われる物を拾い上げる。

「ほう……これはガリ勉達のいい餌になるな」

男の眼下まで持ち上げられた欠片は、大水晶と称してきたがどうやら世界の彼方此方で採掘される通常の水晶とは異なる物質のようだった。それを証明するかのように欠片はランタンの灯りを内部に蓄積して瑠璃色に淡く輝いている。
男はその欠片をリュックから取り出したサンプルケースへと仕舞い、更にカメラを取り出して"鍵"の姿を写真へと収める。

「これだけあれば大丈夫か」

採取した全ての資料を再びリュックの中へと戻し、背負う。そして祠を出ようと大水晶に背を向けたとき―――

『……い…まで……ば……の?』

囁くような声が響く。男は驚いて辺りを見渡すが其処にいる人間は男のみでほかに声を発する事が出来るものはいない。ふと男の目に映った終焉を齎す"星"の姿。

「まさか、な」

理解不能な現象を忘れようとするように頭を振って、男は今度こそ祠を後にした。


20120624

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