伝承



‐北の祈り子と南の祈り子‐



北の果ての地に
希望を抱いた兄を

南の果ての地に
絶望を抱いた弟を

置き去った
祈りと共に

希望と絶望は
樹の根を通って
世界に満たされた
均衡を保って


北の果ての地に
生を抱いた兄を

南の果ての地に
死を抱いた弟を

置き去った
祈りと共に

生と死もまた
樹の根を通って
世界に満たされる
均衡を保って


北の果ての地で
祈りを捧ぐ兄は変わらず

南の果ての地で
祈りを捧ぐ弟は泣いていた

大きな絶望と
死への願望だった
それは祈りとなって
一瞬にして世界を
死の国に変えて見せた
生物を引き込む
静かな呪い


北の祈り子は
南の果ての地に走る

南の祈り子は
力なく横たわって
泣き続けていた
涙はどんどん湖に流れて
毒沼に姿を変えた

泡立つ毒沼に
北の祈り子が足を踏み入れれば
触れた場所から
浄化され湖畔には草木が繁る
草木が与えるのは
安堵とぬくもり

南の祈り子は
北の祈り子の姿を見て
ゆっくりと眠りについた
死の祈りを緩やかに満たして

北の祈り子は祠の底に
南の祈り子を隠した
そして自身が守るべき
北の果ての地へと
帰っていった
死の国から生の国に
姿を変えゆく世界を眺めながら



20120304

20120623

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