花粉症と引き籠もり


寒さも和らいできた今日この頃。
巷では"春先"と呼ばれる時期になってきた訳だか、今年もまた、奴らがやって来たようだ。大半の人は既に理解してくれているだろうが、奴らとは(杉)花粉である。
風に煽られて、そして風に乗って飛んでいる様子がよくメディアで取り上げられているが、それを見るだけでも鼻がむず痒くなる人も中にはいるんじゃないだろうか。少なくとも僕はその中の一人である。

部屋の外からは、誰のかも分からない嚔(くしゃみ)が聞こえてくる。今日も大勢の人が奴らの餌食になっているようである。

奴らの餌食になればそれまで。止まらない嚔に鼻水、取り出して洗いたくなる程に痒くなる目玉。挙げ句の果てには皮膚すら痒くなる始末である。
マスク、眼鏡、帽子などで防備しても、最後の最後で油断すると努力を水の泡にしてくれる厄介な能力も持っている。
外出後、一番気を付けなければいけないのは髪や衣類に付いた奴らだと言うことを忘れてはいけない。
まあ、奴らが現れる今頃の時期には外出しない、それか花粉の産みの親でもある杉の無い地域に行くのが一番の対抗策ではあるが、こればかりは仕様がないだろう。
仕事や学校などで強制的に外出せざるを得ない人々には「御愁傷様」と言う他無い。

因みに、花粉症とは一種のアレルギー反応であるが、体内では凄いことが起きているらしい。
なんでも、花粉(抗原)が鼻粘膜で肥満細胞に接触すると、肥満細胞の表面にあるIgE抗体と反応して顆粒が遊離して、ヒスタミンやらセロトニンやらが放出されてアレルギー反応が現れるらしい。
一般人にはなんのことやらである。
ヒスタミン辺りはまだしも、肥満細胞やIgE抗体に至っては訳が分からない。人の身体というものは難しいモノだと感心せざるを得ない。

そんな事を(知ったかぶりをして)並び立てている僕は、所謂引き籠もりである。奴らと出会いたくないからではなく、人と出会いたくないが為の引き籠もりである。
一人暮らしではあるが内職と馬券で稼いだ金を地道に遣り繰りして生きている。最近の世の中は、大体のことはネットで片付くのでほぼ外出せずに済む訳だし、僕個人はそれなりに楽しんでいるので、同情なんてものは必要ない。

なんて言っている間にも、どうにも水っぽい鼻水(鼻水とは元々そういうものだろうか?)が垂れてくる。
引き籠もっているにも関わらず、若干奴らに攻撃されている。その内嚔も出るだろう。
奴らもリア充と同じくらいに爆発、乃至は滅ぶべきだと思ってはいるが、奴らも正直可哀想な奴らなので思っているだけにする。
まあ、「正直可哀想な奴ら」と言うのは、奴らには悪意が無いと言う点にある訳だが。
奴らは子孫を残すために当たり前の事をしているだけなのだ。それだけなのだ……が、悪意の無い無垢と言うのも質が悪い。

そうもしている間にも12回程度は嚔をした。鼻が痒い。いや、鼻の粘膜が痒い。更には口腔(上顎寄りの咽頭とでも言おうか)も痒くなってきた。だが、どちらも掻くに掻けない場所なので余計に痒い。
こうなったら最終手段を取るしかない。病院から処方された薬物である。誰しもが貰うであろう一般的な抗アレルギー薬であるが飲まないよりはましである。
因みに抗アレルギー薬の作用機序は……と語りたいところではあるが、嚔と鼻水が止まらないため省略させてもらう。どうせ僕ら一般人には知っていようと知らずとも大差ないのだから。

さて、薬を飲んだ次にやることは睡眠だ。
眠ることで嚔による無駄な体力の消費を避けつつ、アレルギー症状を強制的に遮断する。花粉症を発症して十数年の間に身に付けた対抗策だ。
まだ真っ昼間だが、早々に布団に潜り込み寝る体勢を作る。時間帯なんか気にしない。引き籠もりなのだから、寝たいときに寝るのだ。問題なんか有るはずもない。
あぁ、次に目が醒めたときに季節が変わっていない限りは、変わらず奴らに苦しめられるのだろう。
世の中には「毒を以て毒を制す」という言葉があるが、僕は恐らく一生実行しないだろう。奴らを――克服するためとはいえ――意図的に体内にお招きするなんて大金を積まれてもお断りしたい。

それでは、就寝。
出来れば、少しでも良い夢を見れますように。


(結果、魔神と思しき姿になった花粉に延々追い回された夢を見たのは内緒である)


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20120311


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