どうやら学校中の人間は全て敵のようで、
いつ関わり合いを持ったのかも分からない人間ですら
憎しみや憎悪、その他諸々を含んだ目を
僕に銃口のように向けるものなので、
いつ殺されても可笑しくないものだと、
頭の片隅で考えては「くだらない」と
切り捨てては諦めて生きてきました。

ですが、それも今日でお仕舞いです。
「弱虫」という猫を被っていた僕が、
「ナイフ」という虎の威を借りるように
狐の力を知らしめる番が来たのです。
先ずは教室中の顔見知りの生徒、元友人、
それから見て見ぬ振りをした先生諸君にも、
変わらず平等に罰を与えさせてもらいます。

もう、僕には僕以外に大切なものは存在しない、
そもそも元から存在する筈も無いので、
悲しみや罪悪感に捕らわれたりもしない訳なので
涙も零れる事もなく淡々とナイフを振り翳すのです。

ああ、僕以外に大切なものが存在しないというのは
まあ、詰まるところには
両親がいないという所に有る訳ですが、
母は僕の事を蔑むような目で見てから息を引き取り、
父は酒に溺れ、挙げ句の果てに事故で死にました。
僕が今まで学校に通っていられたのは、
母方の祖父母のお陰では有りますが、
彼らも、僕の事を嫌いな娘が残した
粗大塵のようにしか思っていないので
僕にとってもどうでもいいのです。

音が無くなった教室は凄惨な陽の色に染まって、
僕が握っているナイフからは誰かの後悔の涙が
音を立てて滴り落ち、床に溜まっていました。
僕はといえば漂う鉄の匂いを肺に満たしては、
口角を上げて、この状況を楽しんでいました。
ひたすらに現実逃避をするように
アルコールに浸るように酔いしれているのです。

遠雷のように響き渡る遠吠えが、
普段は役に立たない御犬様の到着を知らせています。
僕が助けを求めても助けてくれなかった御犬様は
既に死体に成り果ててしまった
皆さんの味方のようです。
まあ、そんな事最初から知っていました。
そう、彼らが僕の存在を書き違えた文字のように
何の感情も無く消し始めたその時から。

教室へと駆け込んできた御犬様は
獲物を狩るような目で僕を睨んでいます。
彼らは吠え散らかしては何かを叫んでいます。
まあ、僕はこの後御犬様の巣へと連れて行かれ、
裁判所、絞首台へと送られるんでしょうが
今の僕にはそんな事は、もうどうだっていいのです。
だってこれから彼らを化かして
撒いてあげるのですから。

ああ、僕の事を鼠だと侮っていた皆さん、
これが俗に言う「窮鼠猫を噛む」ですよ。
僕は鼠に化けた、質の悪い狐だったようですが。

それでは、また会う時まで、さようなら。

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20130308


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