中身のない話



「そんでさ、何が飛んできたと思う?」

好きな人の話してます、みたいな恍惚の表情を浮かべて自虐ネタをかれこれ一時間程度喋り続けている彼。よくもまあそんなに話が続くな、と頭の隅で感心しながら耳を傾ける俺。

「ガラス製の灰皿だよ」

けらけらと笑いながら右目の上を指差す。よくよく見るとそこにはうっすらと、それでいてくっきりと痕が残っていた。

「いやぁ、あの時はビックリしたなぁ……。目ぇ開けたら視界が真っ赤っかでさ、赤の向こうにもう一回灰皿投げようとする親父がいるんだもん」

テーブルに広げられた菓子の山から、チョコレートを摘まんで口へと放る。甘いはずなのに、どこかしら苦味が広がる。彼は少し前から飴を舌の上で転がしているようだが未だに無くならないらしい。

「それでよく生きてるな」

「ほーんと、奇跡だよね」

そこで気がついた。彼は口で笑っていても、眼で泣いていることに。それに気づくと俺の胸は一気に締め付けられて――誰よりも苦しいのは彼だというのに――死にたくなった。
だから、ちょいちょい、と手招きをして彼を近くまで来させて抱き締める。

「どしたの?」

「ちょっと死にたくなったから栄養補給」

「一緒に死んであげようか?」

「遠慮しとく」

「なーんだ、つまんない」

口を尖らせる彼は、口で泣いて、眼で笑っていた。遠慮しとく、なんて言ったものの一緒に死にたい気持ちが半分くらいあるなんて笑える話だ。


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20120529


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