見えない振り


何も見えない。
何も見えない。
何も見えない、振り。
だってもう、何も見たくない。
この、両の瞳すら潰したい位に。

走る痛みと、紅く染まる世界。
区切られた部屋の中で叫んだ。
紅を溢れさせるそこ。
そこ以上に痛む、心。

白い包帯に覆われた右目。
望み通り瞳を傷付けたらしい。
医師から宣告された失明。
片方を失うと思いの外世界は狭い。

顔を合わせれば青ざめる君の顔。
回りを見れば君だけじゃないや。
僕には理解できなかった。
赤の他人を心配する、その精神。
あまりに可笑しくて口角が上がる。

放課後、一人笑ってたんだ。
可笑しくて可笑しくて、楽しくて。
ただの失明ごときで心配する。
なら残りも無くなったら?
きっと今以上に心配するんだ。
それに僕はもう何も見なくていい。

手に取った、鈍く光るナイフ。
見えなくなったらどう生活しよう?
そんな疑問が脳裏を巡った。
けど溢れる興味に勝てるはずない。
あと少しで世界とお別れ。
死には、しないけど。

ナイフを握る右手を掴まれた。
いきなりで吃驚して顔を上げる。
息を切らした君がいた。
灰色の双眸が怒りに揺れてる。

その顔が僕を苦しめるんだ。
君の存在が僕を苦しめるんだ。
何で僕に構うの?
何で僕を止めるの?
疑問と拒絶が頭をぐるぐる回る。

心が裂けそうな位に痛い。
あまりに痛すぎて死にそう。
「ねぇ、助けてよ」
言ったら矛盾してるって笑う?
僕自身も矛盾してるって思うよ。

苦しくて苦しくて。
耐えられなくなったから。
君の手を振りほどいた。
握ったナイフが紅に落ちる。

本当に最期になっちゃった。
もう君の顔も見れなくなるね。
間際になって理解したよ。
僕は君が好きだった。
好きで好きで仕方がなかった。
だから回りが気に食わなかった。

馬鹿だったな、僕。
心臓が緩く脈打って。
その度に紅が溢れて。
君が泣くんだ。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

こんな僕の為に泣いてくれる。
本当に君は優しかった。
ありがとう、嬉しかったよ。


2011/10/26


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