【...xed】
――三年なんて早いものだ。
【...xed】
そして時は流れた。
流転こそが万物の本質だと言ったのは誰だったか……偉人だったかも知れないし凡人だったかもしれない。
「今日で、さいごだね」
鷲色は時が流れても変わらずそこにある。まるで"全"に歯向かうかのように。
「………」
彼から見たら僕は、どうなのか……。知る術などありはしないが。
「……どちらだ」
「何がだい?」
「……どちらの"さいご"だ」
「そういうこと。勿論、此処……今、この時点から後はないさ」
彼との探り合い(遊戯)も今日で"最期"。彼は勝ち越したまま、終わりを告げたのだ。
「結局最後の最期まで君は黙り。正直、お手上げだよ」
眉尻を下げながら笑う彼。だが光を宿す鷲色は自身の勝利を確信している。
「……ならば、悔いることなく訣別することが出来る」
「本当かい? もう一度聞いてあげようか?」
「幾度聞かれようとも、答えは変わらんさ」
「それじゃあ、もう一度」
距離を取って立つ僕の手を、彼はあの日と変わらない温度の手で掴む。
「僕のこと、好き?」
「……嫌いさ、お前のことなど」
手を振り払って、普段縁の無い笑みをぎこちなく浮かべる。
「そうか、残念だよ」
「お前には僕よりも相応しい人間がいるさ」
「まるで、君が僕に相応しくないみたいな言い草だね」
窓から差す夕日は一日の終わりを告げるべく、帳を引いていく。
帳に塗り潰される太陽が、死んでいくのだ。まるで僕のように。
「……事実さ」
「……さよならだね」
黒塗りの鞄を掴み、共にすごし、探り合い、生き抜いて、死んでいった教室を彼が一歩だけ出る。
振り向いて、教室(世界)に言霊を落としていく。今思えば、この言霊こそ彼に勝利を確信させるに能う切り札だったのだ。
「
僕は、
君を初めて見た時から、
好きだったよ。
今もね
」
彼はそれだけいって、帰路に足を向けた。彼が教室の入口から姿を消したことを確認して、窓枠に肘をつく。もう永遠に伝わることのないだろう感情をもう数十秒で死ぬ太陽に向かって吐き出す。
「……僕も、初めて見た時から……好きだったよ」
これが僕の敗北を認めた言霊。
彼がいないと思って吐き出したのに……いきなり背後から腕が伸びてきて、僕の身体を捕らえた。
「僕の、勝ちだね」
「………」
「また黙りかい?」
「……そうか、僕はお前の策略(遊戯盤)に溺れたか」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
訣別することを決意していたのに、
君はまるで蜘蛛のように
僕を離してはくれないんだ。[ 31/71 ][←]