黒い影は白昼夢




―――僕は白い影を追って。


夢でも現実でも彼を探してた。
彼の影は見つけられるのに、彼自身を見つけられない。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「あの時、素直に私を殺していればよかったのだ」

白い影の中に紅を落とす彼は、音を溢す。至極悲しそうな顔をして。

「だからもう一度だけ、私を殺してくれ。自ら死を懇願するのも、それをお前に強要するのも……これが最期だ」

「………」

重そうに持ち上げられる手には、グリップをこちらに向けたまま握られる何時ぞやの拳銃。

「なんで、そんなに……死にたがるの?」

「前にも言っただろう? 苟且の体を抜けて、お前と共に歩むために」

「苟且の体を抜けることがそんなにも大事? そのままじゃ、駄目なの?」

「……私が此方に縛られている限り、お前は彼方で私を見つけられない。たとえ、私がお前の隣を歩んでいようとも」

さぁ、と言わんばかりに、拳銃を握る彼の手が揺れる。僕を見つめる彼の瞳はぴくりとも揺らぎはしない。

「……わかったよ……」

熱を生まない鉄の塊を彼から受けとる。彼のことだから、既に弾は入っている。それも一発だけ。

「ありがとう。此処から解放されたら、すぐに会いに行く」

銃口は震えることなく、彼の心臓の位置を捉える。トリガーに当てられた僕の右人差し指も震えない。


‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐

幼い頃、僕は彼に憧れていたのかも知れない。憧れのあまり、彼になろうと必死になりすぎて彼を塗り潰してしまったんだ。
でも、当たり前のように僕が彼になるなんて到底不可能で、彼が消えたと言う事実だけが無惨にも僕の心に突き刺さり、抉り、穴を作っていた。
黒く、黒く。

‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐

「……うん。早く……」

「?」

「早く、迎えに来て。僕が自分を殺しちゃう前に」

一筋だけ、涙が頬を伝う。
それを引き金に、放たれた弾丸は一寸も違(たが)うことなく彼の心臓を貫いた。
倒れる彼を追うように、僕の視界も揺らぐ。
最後に見た彼の影は、黒く、鮮やかに染まっていた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

次に合うときは夢ではなく現実で
早く僕に、鮮やかな色をつけて



20110923


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