黄玉に透かし見る


―――緑にぽつり佇む月は、君の手を引いて



月が揺れている。流れる、雲と雲の狭間で。
それを見上げる僕と彼は、ただ音もない空間に。他愛もない会話も、木々を吹き抜ける風の音も、草に埋もれ求愛する虫の声も、届くことはない。

「       」

彼が何かを言うけれど、僕の耳に届く前に消えてしまう。
今、なんて言ったの?
言葉にする前に、視界が歪む。
まだ、まだ彼と離れたくないのに!

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

現実、というのはとことん残酷で、どんなに必死に足掻いても自分の欲しいものなんて、それの半分も手に入れられない。
しかも、その半分なんて誰しもが容易に手にいれられる物で、本当に心の奥底から欲しいと願ったものは一切手に入らない。
僕にとって、正しく彼がそうだった。

「―――また、……夢」

僕の夢に住む彼は、まるで生きているように自由に動き回る。なのに、目の前にいない。

「鏡……何処だっけ」

近くにあるはずの鏡を手探りで探す。
こつりと手に当たったそれを取って、自分の顔を映す。

「あぁ、まだ、まだ大丈夫……」

左右で色の違う瞳を見て、心のそこから安心する。僕という自己を象徴する碧玉の瞳と、彼という他人を象徴する紅玉の瞳。
紅玉が碧に飲み込まれてしまったら、きっと彼は夢の中ですら死んでしまうんだ。


黒い夜に浮かぶ月は緑に揺れる翠玉ではなく、現実を静かに照らしあげる黄玉に透かされていた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


彼が夢に跳ねるから、
僕は夢と現実の狭間に取り残される


20110922


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