君と僕の命日


――あぁ、手向けるならば百合の花を


今日は君の、……君の。
雨露に濡れた草花を踏みしめて、君が眠る地へと。

「もう……五年になるのか。早いものだな」

ただ名前が刻まれた石に、数本の百合の花束を手向ける。
君がそこにいるわけでもないのに。
肉体は疎か魂すらもそこに縛ることは出来ないのに。

「君は……先に行ってしまう。周りの者は皆そうだ」

丁寧に磨かれた石に、まるで君の頬を撫でるが如く、指を滑らせる。そこに熱など存在してはおらず、ただただ冷たい氷に触っているかのようだった。

「そうやって、我輩を苦しめるのだ。全く意地が悪い」

上がっていたはずの雨が、薄暗い心に呼応するかのように降りだす。

「君も、彼奴も、本当に……」

雨に濡れ、纏う黒は肌に張り付いて嫌悪感を生むが、そんな感覚はこれが最後だと思って諦める。

「……あぁ、でもこれが……最後だ。我輩も今、そちらへ行こう」

目尻から落ちた雫は、雨粒か、それとも……。
懐から小さな小瓶を取り出す。
揺れる中身を呷り飲み干す。焼けるように痛む喉も胃も、そちらへ行くための通行量だと思えば。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


でもきっと、君は怒るだろう?
何で人生の最後の最期まで
しっかり生き抜かなかったんだと
甘やかさず叱ってくれるだろう?


20110920


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