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「あの頃の僕は幸せだった」

「今は、そうでもないとでも言いたげだな? 我輩が来たのが不満か?」

「正直、よく分からないんだ」

彼は空(という定義が合っているのか定かではないが)を見上げて眉を八の字にして苦笑いをしている。

「君に会えたのは嬉しいんだ。これからずっと一緒に居られることも。でも……」

「でも、なんだ?」

「……僕は君に幸せになってほしかったんだよ。一人の女性を愛して、家庭を作って、子供を作って」

「ほう。貴様は、それが我輩にとって幸せになると?」

「それが一般的幸福だろう?」

我輩が彼を見上げ、彼が我輩を見下ろす。
抜かすことの出来なかったこの身長差も、今では心地好く感じる。

「我輩を一般的幸福の道から踏み外させた人間の言葉とは思えんな」

「そうだね。それに、本当にそんなことになったらその女性と子供を嫉妬で呪い殺しちゃいそうだ」

「そんなこと出来るわけあるまい。全く、訳のわからん奴め……」

「それだけ君を愛してるんだよ」

「貴様の愛など受け取りたくもないがな」

「照れなくていいよ」

「照れてなどいない」

「ほっぺ真っ赤だよ〜?」

「うるさい! 死ね!」

言い終わるか、言い終わらぬか分からない内に彼の腕に抱き止められた。

「……もう、死なないよ」

死んでるんだから、と耳元で笑う彼は本当に笑っているのだろうか?

「やっぱり今の方が幸せだよ」

「そうか」

「ねぇ、今、幸せ?」

「……あぁ。少なくとも、一人で生きていた頃に比べればな」


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

全く素直じゃないんだから!
でも、そんなところも愛してる!


20110919


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